(元同級生に)だまされる

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(元同級生に)だまされる

「個人でこんだけ依頼来るんだな」 「前の事務所の関係とかで、ちょっと多いんだよね。一人だと疲れるし、千聖ちゃん見つけられてよかったよ」 「ここまでとは聞いてない。あと、その呼び方はやめろ」 「言ってなかったっけ? 大変なくらい依頼あるよって」  確かに言われてはいたが、予想以上だ。 「あと、名前はかわいいから良いと思うよ」 「俺は良くないんだよ」  不釣り合いに名前だけかわいいのも、そもそもかわいいのも。千聖は思わず溜め息をつく。  雇用契約だけはやけにしっかりと結んだが、逃げられないようにするためだったのだろうか。  何もかもが軽く見える男はまさか仕事まで軽々こなしているように見えるものだとは知らなかった。新山と、三島という堅苦しいほどきっちりした歳上の助手しかいないと聞いていたから、二人では手に余る程度の量かと思っていた。聞けば弁護士もパラリーガルも募集中だと言うから、この弁護士不要時代によく勝ち残れているものだ……と、感心する時間もない。  それでも多忙を極めた時期を乗り越え、ともに数年やってきた。新しく入れた若手の助手二人も、噂好きなのが欠点といえば欠点だがよくやってくれている。  最も多忙な新山には三島が付きっきりになることが多い分、そして所長の新山宛ての依頼が多い分、新しく入った人間の世話をみるのは千聖の役目になることが多かった。  ただどうにも千聖の外見は威圧感を与えるらしく、千聖のせいで辞めた人間もいた。新山は相変わらず軽い調子で咎めないが、内心どう思っているのかは疑問だ。千聖を拾って失敗だと思っているかもしれないし、なんとも思っていないかもしれない。  千聖が多少の責任感と罪悪感で揺れていた頃、突然ソレは来た。  仕事終わりにジムへ顔を出すと、今日は休みだった新山がすでにいた。タンクトップでダンベルを上げる姿は、もちろん自分よりも細身だが十分に筋肉質だ。千聖の姿を認め、軽く手を上げてトレッドミルで隣り合う。 「千聖ちゃん、土日出勤、しばらく変わってくれない?」 「土日って……なんで?」  つい呼び方の訂正を忘れてしまった。土日は企業案件が少ない代わりに、男性からの依頼と、誰かの同伴で来るようなやや難しい案件が多い。何か裏か目的があるのだろうかと訝る千聖へ、新山は屈託なく笑った。深い笑窪を場違いに感じる。 「恋人がさ、どうも土日休みっぽいんだよね。でも俺は土日出勤だから、向こうが起きるまで隣にいられないのが寂しくて」 「は?」  ツッコミどころが多すぎた。
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