(元同級生の恋人に)よばれる

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(元同級生の恋人に)よばれる

 週末の出勤交代と引き継ぎを晴れて終えた千聖は、休日に戻ったはずなのになぜか新山と向き合っていた。日曜日の昼下がりのカフェはそれなりに混み合っていて、スムージー片手の千聖は私服だというのに浮いてしまう。いくら新山をアクセサリーに据えていたところで、これだけゴツい男がいれば目立つ。むしろ下手に優男風の新山がいるからこそ目立つ。なぜ休みまで顔を合わせなければいけないのか、と溜め息が漏れそうになった。 「すみません、遅れてしまって」  長身痩躯。その言葉がひと目で浮かんだ。精悍な顔つきには、今は焦りが色濃く浮かんでいる。不意に田辺を思い出した。顔はまったく似ていないし、田辺にここまで身長はないだろう。だが細く長い手足と顔に浮かぶ困惑が似ていた。 (悩む人の顔は、職業柄見慣れているはずなんだけど、どうしてあの人が?)  残念な慣れを不思議に思う暇もなかった。 「夢月くん、こっちだよ」  見たくなかった同僚の浮かれ顔。だが「恋人が会いたいらしい」と新山に詰められると、いつの間にか千聖は陥落していた。新山に逆らうことはそろそろ諦めつつある。休みのはずの千聖と新山の恋人、休憩で抜けた新山がそろった。 「あんたはもうちょい、態度ってもんがあるだろ。樫木さんすみません、お呼び立てしておきながら」  雰囲気は田辺と真逆か。眼前の凛々しい男は同じく美青年でも、どう見ても薄幸ではない。武士のような固さすら感じる。  新山の恋人と言われてセフレ上がりの軽そうな人間を想像していただけに、おカタそうな男が来たのが意外だった。男が来たことには驚かない。新山の節操のなさは知っている。 「いえ、大丈夫です」  遅れたといっても一分だ。早めに行動する癖のついた千聖だから待っただけで、他の相手なら待ったかどうか疑問なレベル。  男は席につくなり、甘い声で名前を呼ぶ新山を無視して、名刺を机に置いた。『一之瀬夢月』。日本有数の製造メーカーの技術エンジニアリング部勤務。新山との接点は謎だったが、不必要に新山のことを知りたくはない。それよりも、なぜ今日呼び出されたのかがわからなかった。  一応千聖も名刺を渡して自己紹介する。 「貴重な休日にお時間をいただいてしまって、それも申し訳ありません。これをお渡ししたかったのと、できれば直接謝罪をと思いまして」  差し出されたのは、入店してきたときから一之瀬が提げていた紙袋だった。百貨店の……菓子折り? 「知らなかったでは済まされないと思っています。本当に申し訳ありませんでした」  歳下だと聞いていた青年に、深々と頭を下げられた。
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