それでも花は咲く

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「3日後に小学校の卒業式を控えてました」  すると、彼女は窓の外を見つめたまま話し始めた。 「その頃よく遊んでいた三人がいて、保育園も小学校も一緒で、中学校も同じところになる予定でした」  息を吸い込んだ彼女の頬が、一瞬緩む。 「桜って、入学式が終わってちょっとしてから咲くもんじゃないですか? だから、色々ひと段落したらお花見にでも行こうかって、話してたんですけど……」  そこまで話して、彼女は口を噤んでしまった。視線は相変わらず遠くの方に行ったきり。ひとつに結んだ髪が微かに揺れるだけだ。 「桜、咲いてるんですね」  しばらくして、また彼女が口を開いた。  僕は彼女の真似をして、窓の外を見る。 「綺麗ですよね、桜」  はらはらと、桜の花びらが舞っている。  背景が真っ青な空なので、舞い落ちるピンクの花びらはとても映えていた。  向かいで彼女の息が漏れる。 「嫌いなんですよね、桜」  驚いて振り返ると、淋しそうな彼女の横顔が僕の目を捉えた。 「嫌いなんですか? 桜」  思わず聞き返してみる。  彼女は大きく息を吸った後、静かにまた息を吐いた。 「別ルートの未来の話されてるみたいで、それが嫌なんです」  表情は笑っていた。でもその瞳には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
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