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生きている人間に、季節は平等に巡ってくる。
春は、私にとって『始まりの季節』だった。でもそれは幼い頃に抱いていたイメージで、いまの私にとって、春は『始まるはずだった季節』だ。
春が嫌いだ。
待ち望んでいるのは、もっと別の春であって、目の前にあるのは春じゃない。
追い討ちをかけるように咲く桜は、もっと嫌いだ。おかげで今年の春も、私は上を向いて歩けそうにない。
12年。
そんなに経ってもなお、私の春は2011年の3月11日で足踏みしている。
思い描いていた未来は悲しみで埋もれ、大事な人たちは波に攫われてしまった。桜と一緒に見るはずの風景は奪われたまま、二度と戻ってはこない。
だから私は、上を向いて歩きたくなんかないし、別ルートの春なんてほしくない。
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