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「よかった。夢じゃなかったらどうしようかと思いました」
笑って話すと、彼女の表情は少しだけ柔らかくなった。
「初めてです。夢の中で『夢ですよね?』って聞かれるの。なんか変な感じ」
そう言って、白い歯を覗かせる。
僕と彼女の間の空気が、さっきより和やかになった気がしたので、僕はさっそく話を切り出すことにした。
「実は、あなたにずっと聞きたかったことがあるんですが」
しかし、そう言いかけたところで、「すみません」と奥の方から声が飛んできた。彼女は「はい、ただいま!」と声を張ってから、メモとペンを片手に客の元へ走っていこうとした。
「待たせてもいいのでは?」
思い切って声を上げると、『えっ』と声を漏らしながら、彼女がこちらを向いた。目が合うと、僕は思わず慌ててしまった。
「夢ですから、これ。待たせてもお客さん怒らないと思います」
呼び止めるにしては、変な理由だったかもしれない。それでも彼女は、僕の言葉を受け取ると、何も言わずに一回頷いてから、僕の向かいに座ってくれた。彼女が完全に腰を下ろすのを待ってから、僕はふたたび身を乗り出した。
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