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* * *
「すみませんー! 注文いいですかー?」
ハッとして振り返ると、砂場に立っていた。
見覚えがある。たぶん昔よく遊んでいた公園だ。
自分の体は小さくなっていて、さっき再会を果たしたはずの同級生も『あの頃』まで一気に若返っていた。
時間や場所がいきなり変わったのは、すべて夢のせいだろうと思った。
懐かしい三人に手招きされて駆け寄ると、到着して早々、たっちゃんが声を上げた。
「僕はね、まいちゃん特製、ふわっふわたまごサンド!」
たっちゃんは、砂場にかいたメニュー表を指さしている。
「僕も同じの!」
「私も同じので!」
横にいた、かーくんとさっちゃんも、たっちゃんの真似をして、メニューを指さした。
「かしこまりましたー!」
私は元気よく返事をした後、砂で作った調理場で準備を始めた。
そういえばそう。この頃、『将来の夢』には『おしゃれカフェの店員さん』と書いていたかもしれない。
真っ赤なプラスチックのフライパンに、さっきこねた泥団子を投入する。
そのままぼんやり上を向くと、どんよりとした曇り空へ枝が伸びているのが見えた。
桜だった。
桜の蕾はまだ固く閉じていて、可愛らしいピンクはどこにもない。冬の気配が残る桜だった。
その桜を見て、私は思った。
──このまま時が止まればいいのに。
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