それでも花は咲く

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3 「桜、綺麗ね」  気が付けば、いつもの夢を見ていた。  あの店にはひとりで行くことが多いが、今日は母親が向かいに座っている。彼女は窓の外を眺め、そこから見える満開の桜を堪能していた。 「母さん、桜好きだもんね」  すでにブレンドコーヒーがふたつ運ばれてきている。僕はそのうちのひとつを取って、顔に近付けた。 「(まこと)はいくつになったの?」  コーヒーを飲もうとしたとき、唐突にそんな質問をされ、思わず首を傾げた。 「さんじゅう……いちかな……?」  そう答えると、彼女が無邪気に笑いながら視線を下げた。その視線を追うと、いつのまにかテーブル中央にいちごのホールケーキが登場していた。 「あぁそっか。来週で32だ」  忙しくて自分の誕生日のことをすっかり忘れていた。僕の受け答えがよほど間抜けだったのか、彼女は皺を作って笑っていた。 「桜の咲く時期が、あなたの誕生日だからね。こうやって桜を眺めていると、あなたが産まれた日のことを思い出すの」  ふたたび窓の外を眺めると、風に揺れる桜が淡いピンクの花びらをゆっくりと散らしていた。 「はぁ〜。親としてあなたにやってあげられることは全部してきたつもりだけど……本当に全部やってあげれたのかしら?」  彼女は溜息を吐くと、片手で頬杖をしながら、目の前のコーヒーを啜った。 「僕のことは心配しなくて大丈夫だから」  そう言ってはみたが、彼女は窓の外の桜を眺めるだけで、特に返事はしなかった。
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