それでも花は咲く

9/14

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「母さんは52歳だっけ?」 「……そうだけど?」  僕は続けて尋ねた。  彼女は顔を桜の方向へ向けたまま、なかなか正面を向かない。それが少しだけ淋しく思えた。 「毎年、誕生日がくるたびに思うんだけどさ」  吐き出した息のせいで、コーヒーの湯気が少し揺れる。僕は躊躇いながらも、小さく口を動かした。 「自分はどんどん年老いて、どんどん母さんの歳に近付いていくんだなって」  彼女はまだ桜を見ている。  釣られてまた、僕も桜を眺めた。 「ねぇ、母さん」  桜の花びらがまた数枚、宙を舞った。 「いまどこにいるの?」  僕は正面を向いたが、向かいには誰も座っておらず、湯気が漂うコーヒーがひとつと、手付かずのいちごのホールケーキがあるだけだった。  視線を感じて顔を上げると、すぐそばでいつも見かける店員さんが立ち尽くしていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加