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「母さんは52歳だっけ?」
「……そうだけど?」
僕は続けて尋ねた。
彼女は顔を桜の方向へ向けたまま、なかなか正面を向かない。それが少しだけ淋しく思えた。
「毎年、誕生日がくるたびに思うんだけどさ」
吐き出した息のせいで、コーヒーの湯気が少し揺れる。僕は躊躇いながらも、小さく口を動かした。
「自分はどんどん年老いて、どんどん母さんの歳に近付いていくんだなって」
彼女はまだ桜を見ている。
釣られてまた、僕も桜を眺めた。
「ねぇ、母さん」
桜の花びらがまた数枚、宙を舞った。
「いまどこにいるの?」
僕は正面を向いたが、向かいには誰も座っておらず、湯気が漂うコーヒーがひとつと、手付かずのいちごのホールケーキがあるだけだった。
視線を感じて顔を上げると、すぐそばでいつも見かける店員さんが立ち尽くしていた。
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