最後の願い

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「ねえ、今日が何の日か知ってる?」 「今日は……3月1日……」 「そう。俺たちが初めて出会った日なんだ」 「えっ?」  俺たちが出会ったのは、確か三年前の友人から誘われた飲み会だった。仕事がなかなか終わらずに遅れて行ったら、同じように遅れてきたのが祐希だった。「遅れてごめん」と、まるでハモるように頭を下げた瞬間に、二人して顔を見合わせて笑った。  あれが――三年前の今日だったのか――。 「俺さ、あの時……運命だと思ったんだ」 「運命……?」 「そう。俺はこの人を好きになるって……そう思った」 「俺は……」  第一印象は、年齢よりも幼くて可愛らしいという感じで、今まで近くにいなかったタイプだったから、まさかこれほどに大切な存在になるなんて思いもしなかった。  だけど会うたびにどんどん惹かれていく自分がいて、気がつけば離れられなくなっていた。 「俺ね、洸平が大好きだよ」 「祐希……?」 「本当に大好きで、ずっと側にいたいって思ってた」 「おい」 「すごく好きなんだ」  きれいな笑顔で伝えられた言葉に、何故か違和感を覚えていた。  自分が伝えようとしていたことを言われたみたいで、胸が苦しくなる。 「なあ、祐希……。お前、まさか俺と別れるつもりなの?」 「ううん。別れたりしないよ。最後の一瞬まで俺は洸平と一緒にいたい」 「じゃあ、何でそんな……」 「言葉って大切だなって、伝えないまま離れるのは苦しいから……」  笑顔を見せながらも、声が震えているのがわかる。その震えを少しでも和らげたくて、優しく手を握りしめた。 「大丈夫。俺も祐希のことが大好きだよ。最後の一瞬まで、一緒にいたいと思ってる」 「本当?」 「本当。心から大切だと思ってる」 「嬉しい……」  目にいっぱい涙を溜めて、それでも笑顔を見せてくる。そんな祐希が愛しくて、洸平は握っていた手を離すと、そのまま包み込むように抱きしめた。  どことなく一緒にいるのが当たり前になっていて、話す時間も、一緒に過ごす時間も疎かになっていたのかもしれない。  だけど、洸平にとっては、付き合った頃と気持ちは全く変わっていなくて、それどころか、一生一緒にいようと心に決めていた。  でも、思っているだけじゃ伝わらない――それが今ならよくわかる。 「俺は、ずっと変わらずに祐希を愛してる……」 「うん。俺も……洸平を愛してる」  お互いの気持ちを言葉にした瞬間――眩しい光に包み込まれた。
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