最後の願い

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 目を開ければ、そこは真っ暗な世界だった。 ――戻ってきたんだ――  確かにいつまでも幸せな時間が続くわけなんてない。そんなことはわかっていた。思っていたよりも冷静に事を受け止められている自分がいた。  それはきっと、きちんとした言葉で思いを伝えることが出来たからだろう。 「望みは叶ったか?」 「はい」 「そうか。なら、もう思い残すことはないな?」  老爺の問いかけに、頷こうとしたその瞬間―― 「ちょっと待った!」  その動きを止める声が届いた。ここには、洸平と老爺しかいないと思っていたのに、第三者の存在があったことに驚きを隠せない。 「お前は、大東祐希だな」 「そうです。思い残すことあります」  自分の目の前に現れた人物に、思わず自分の目を疑った。何度見もしてしまう。そして、何度見てもそこにいるのは、祐希だ。 「ちょっ、なんで……」 「思い残すこと、あるでしょ?」 「そうじゃなくて……なんでここに……?」 「俺も一緒だよ。同じ日に同じ場所で死んだんだ」 「うそ……だろ……?」 「本当だよ。洸平に呼ばれた気がして……振り返ったらお前を見つけて、気づいたら走り出してた」 「そんなことって……」 「っとに、ばかだよな……」  信じ難い話に思考は止まったまま――。だけど、目の前の祐希は笑っていて――、可笑しくないこの現状に、ふっと笑いが出た。 「俺たちは、ずっと一緒にいるべきだ。だろ?」 「ああ……」 「それでは、二人の最後の願いは、ずっと永遠に寄り添うでいいんだな」 「「はい」」 「もう二度とその手を離すことのないように……」 「けど、どうしてですか?」  二人が疑問に思っていることはきっと同じはずだ。  最後の願いは、自分の気持ちを大切な人に伝えることだった。  そして、その願いは叶うことが出来て今ここにいる。  もうすでに最後の願いは使ったはずなのに――。 「二人でここにいるということは、二人で一つの最後の願いを叶えることができる」 「「じゃあ、俺たちは……」」 「生涯、共に過ごすと誓うか?」 「「はい」」 「その願い、叶えよう」  まるで二人を導くように、真っ直ぐな光の橋が現れて、その上を並んで歩いていく。  その先に何が待ち受けているのかはわからないけれど、きっと大丈夫。  二人ならどんなことでも乗り越えられるはずだから――。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加