親友

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 確かこの辺りに手頃なカフェがあった筈。  私は周囲をざっと見回してから、とある雑居ビルの一階に足を向けた。  藤本産業との打ち合わせの前に、昼食を摂りながらもう一度資料の確認もしておきたかったのだ。  入り口前のメニュー表には、どれも美味しそうな料理の写真が並んでいた。  イチオシメニューは、春らしい「桜のストロベリーラテ」のようだ。  生クリームが載ったピンク色のドリンクが可愛らしい。  パスタが食べたいけれど、打ち合わせ中にニンニクが臭ってしまったらまずいだろうな……。  私がそんな事を考えていると、ふと目の前に見慣れぬ黒いベビーカーが止まった。 「……もしかして、咲空(さく)?」  その、どこか懐かしさを秘めた甘ったるい声は……。  恐る恐る私は視線を上げる。  茶色みがかった瞳を縁取る瞼はくっきりとした二重。ぷっくりとしたピンク色の唇は女性らしい艶を放っている。  色白の柔らかそうな頬は昔よりも幾分ふっくらしているように見えるけれど……。 「7年ぶりぐらい? ホント懐かしいね!」  屈託のない笑顔を向けてくるのは、かつての親友。  そう、眩しさと切なさとキリキリとした胸の痛みと……、そして罪悪感と共に田舎においてきた筈の、その友だった。  その笑顔に、心の奥深いところが古傷のようにジクリと痛むような気がした。
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