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「ホント久しぶりー。元気だった?」
それでも、私はあえて明るい声を上げてみせる。
私ももう高校生のガキじゃない。
2、3分我慢すれば良いだけの話。
お愛想笑いはお手の物だ。
「旦那から東京に転勤になるって聞いた時、もしかしたら咲空に会えるかも、って思ったんだけど、本当に会えてびっくりー」
私は、ああそうか、と思う。
子供を連れている訳だから、結婚していても当然なのだけど、彼女の口にする「旦那」という言葉が、なんだか幸せアピールのような気がして、心の奥の方がザラリとする。
でも実際に、高校時代とは違ってナチュラルメイクで済ませた彼女は、とても幸せそうに見えた。
きっとハイスペな旦那を見つけて、タワマンなんかに住んだりして、優雅な専業主婦をしてるんだろう。
「咲空は仕事? イメージ通りバリキャリって感じだね」
紺色のパンツスーツに身を包んだ私の姿を眺めながら桜はそう言った。
「そんな事ないけど……」
彼女はふふふっと笑う。
高校時代、私に声をかけてきた男の子にちょっかいを出して「○○君と付き合う事になっちゃったー」と言ってきた時みたいに……。
「もし、もう一度咲空に会う事があったら、言おうと思ってたんだけど……」
彼女はピンク色の唇を一度きゅっと結んでみせてから、意を決したように再びそれを小さく開いた。
「……私ね、高校時代、咲空の事が大嫌いだったの」
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