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今度は私がふふっと笑う番だった。
「何笑ってんの?」
「だって私達、似た者同士だなって」
「どういう事?」
茶色い瞳が怪訝そうにこちらに向けられる。
私はその小さくて可愛らしいお花のような顔を見つめながら口を開いた。
「……私も高校時代、桜の事が大嫌いだったの」
桜は大きな目を更に見開いてみせる。
その茶色い瞳に映るのは、優等生じゃない、ひねくれ者の私。
「小さくて、女の子らしくて、可愛くて、私が持ってないもの、全部持ってる。そして私から男をみんな奪ってく。……好きだった人も」
私はその白く小さな顔をきっと睨みつける。
「咲空が好きだった人? ……咲空は私が何をしたっていつも涼しい顔してて、男に興味なんてないのかと思ってた」
「……卒業の直前に友斗から桜との仲を取り持ってくれって頼まれたの。私は友斗の事が好きだったのに」
友斗に桜の事が好きだと打ち明けられた時、私は「受験が終わるまで待ってくれ」と伝えた。
正直、あまりのショックにそれしか言えなかったのだ。
それでも、どうしたら良いのかわからなくて……。
「私は賭けをしたの。もし第一志望の大学に落ちたら桜に友斗の気持ちを伝える。受かったら……、嘘をつくって」
桜が小さく息を飲むのがわかった。
その艶やかな唇が表す言葉にならない小さな動きは、何を意味しているのだろう。
古い男友達の気持ちを知った驚きか、親友の裏切りに対する驚きか、それとも、信頼していた友の醜い本心に対する嫌悪だろうか……。
友斗から桜への想いを告げられた後、私は必死になって勉強をした。
直前になって模試の結果は低迷していたけれど、逆転合格できたのは、友斗のお陰なのかもしれない。皮肉な事に。
私が正直に友斗の気持ちを伝えていたとしても、気の多い桜の事だし、結果はどうなっていたかわからない……。
でも、私が親友を裏切って嘘をついた事実は変わらないのだ。
ずっとそれが心の奥に棘のように刺さっていた。
その痛みに蓋をして、私は東京で自分のやりたいように生きた。
時折胸の奥が疼くような気がしたけれど、私は桜の呪縛から解き放たれて、幸せなんだと自分に言い聞かせて生きてきた。
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