親友

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「……友達以上には思えないってさ」  私がそう告げると、友斗(ゆうと)は硬く踏み固められた地面に視線を落とした。 「……そっか」  彼の茶色みがかった瞳が悲しげに濁るのを見ると、胸の奥の方がきゅうと締めつけられるような気がする。  友斗は少し考えるようにしてから、掠れたような声を出した。 「……変な事頼んじゃって悪かったな」 「本当だよ。自分らは推薦で大学決まってるからって。こっちは受験生だったのに」  私は何でもないように笑顔を作ってみせる。  唇の端が引き攣っていないか心配だったけれど、睨むように地面を見据える友斗には目の前いる私の顔なんて見えていないみたいだ。 「ごめん……。けど、東京の大学、決まったんだろ。すげーな」 「ありがと」 「東京は悪い奴らもいっぱいいるから気をつけんだぞ」 「大丈夫だよ」 「そうだよな。お前、強いもんな」 「うん」  キリキリと胸の奥の方が軋むような音を立てる。  でも、多分この音は友斗には届かない。 「じゃな」  友斗は結局最後まで視線を合わせないままそう言うと、くるりと私に背を向けた。 「うん、友斗も頑張ってね」  広い背中が小さくなっていくのをぼんやりと眺めていると、淡いピンクの蕾をつけた枝がザワリと風に揺れた。    学校裏の公園に生えている一本桜。この木の下で告白すると両想いになれる。生徒達の間ではそう噂されていた。  友斗から呼び出されたのは、ちょうど一ヵ月前の登校日の帰り。  ここで友斗を待っていた時は、心臓が破裂しちゃうんじゃないかと思った。  激しく拍動を続ける心臓が痛いほどで、バクバクいう音が友斗に聞こえちゃったらどうしょう、なんて真面目に考えていたのだ。  友斗だけは他の男子とは違う。  そう思っていた。  でも……。  小さくて、ふわふわしていて、可愛くて……。  ピンク色のお花がよく似合う、私の親友。  彼女は、私にはないものを全部持っていた。  そして私から全て奪っていった。  私に声をかけてきた男の子も、「咲空(さく)の事、好きなんだって」そう噂にきいていた男子も、気がつけば彼女と付き合っていた。  一本桜の下で告れば両想いになれる、なんて嘘ばっかり。  そう思いながら、私は薄いピンク色の蕾を振り仰いだ。  ああ、そうか。  私は告ってもいないんだった。  告る前に失恋しちゃった。 「開ききる前の桜の蕾はちょっとやそっとの雨風では散らないらしい」という話は誰から聞いたんだったっけ……。  こんなもの、満開になる前に全部散ってしまえばいいのに……。  ピンク色の可愛らしい蕾は、南からの柔らかい風にその姿をふわふわと可愛らしく揺らしている。  こちらも想いなど意に介する事もなく、悠々自適に、ゆらゆらと……。
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