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「最近、桜が元気ないんだよ」
ある朝、おじいちゃんがしょんぼりと呟きました。
言われてみると、春に花が咲いていた時、ちょっと少ないかなと感じた事を思い出しましたが、おじいちゃん曰く、葉の落ちた枝や幹もいつもと違うらしい。
「年なんじゃないの。だいぶ古そうだもん」
母が返すと、おじいちゃんは、不機嫌そうに黙ってしまいました。
その次の日、「ネコ」が行方不明になりました。
母と私は、必死で探し回りましたが見つかりません。
おじいちゃんは
「元々迷い猫なんだし、ちょっと遠くに遊びに行っただけだよ。その内帰ってくるよ」と、そっけない感じ。
あんなに仲良しだったのにと不思議に思っていましたが、やはりおじいちゃんも心配していたのでしょう。
突然、倒れて入院することになってしまいました。
なかなか退院できずにいると、おじいちゃんはどんどん無口になって、表情も消えていきました。
「このままボケないといいけど」
母と心配する日々が続いていましたが、春になり、やがて、おじいちゃんの桜が見事に咲きました。
去年よりも、ずっともこもこの盛り盛り。元気いっぱい。
私は、嬉しくなって、たくさん写真を撮って、病院のおじいちゃんに見せに行きましたが、
ふいっ
おじいちゃんは、なぜか目を背けて見てくれません。
その後は、もう無反応どころか、布団をかぶって寝たフリを始めたので、諦めて帰宅して母に報告しました。
「おじいちゃん、桜嫌いになったのかなぁ」
「そんな訳ないでしょ。あーあんた桜の周り掃除しておいてー」
おじいちゃんの冷たい反応にショックを受けたまま、桜のところに来てみると、辺りは小さなゴミでいっぱいでした。
「おじいちゃん、帰ってきて、実際に花を見たら、絶対笑顔になる」
そう唱えながらゴミを拾い始めると、半分くらい土に埋まったアイスの棒がありました。
抜いてみると
「ネコ」の木
達筆なおじいちゃんの字でした。
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