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ネイサンは亜麻色の髪と灰色の瞳をもつ青年だ。全体的な印象として非常に柔和な雰囲気を纏っている。顔立ちも男らしすぎず、かといって女っぽさがあるわけでもなく、どんな場所にいても、空気のように馴染んでしまうような存在である。
「どうかいたしましたか」
「たいしたことではないのだが、ネイサンはロウのことをどう思う?」
問いかけると、ネイサンはごく自然に笑みを浮かべた。
「変わった方だと思います。しかし、非常に有能な方です。リリーさんも仕事がかなり楽になったと言っていましたが、実を言うと僕の仕事も随分と助けられています」
「というと?」
「ロウさんは僕よりもよっぽど力持ちですからね。力仕事も嫌な顔一つせず請け負ってくださっていて」
「なるほど。ギルバートの人を見る目は間違いなかったということか」
エヴァンの言葉に、ネイサンは大きく頷いた。
「ロウの部屋はどうなっているのだ? まさかリリーと一緒というわけにはいかないだろう」
ギルバートは執事の特権として、執務室と兼用の自室を持っている。しかし、その他の使用人は男と女を分けての共同部屋だ。前任のマリアンヌは今までリリーと同じ部屋だったわけだが、ロウはあくまでも男だ。
「はい、僕とダグラスさんと同じ男部屋に入りました。はじめは、メイド服からの着替えを見るのは妙な気分になったものですが、今ではすっかり慣れてしまいました」
「ロウはダグラスを投げ飛ばしたと聞いているが、二人の間に問題は?」
ネイサンは目にした様子を思い出したのか、口元に手を当てて笑う。
「はじめのうちはダグラスさんが一方的にピリピリした様子でしたが、今はとても仲が良いですよ。時間を見つけては、ダグラスさんがロウさんに、手合わせをせがんでいるようです」
「そうか、それはよかった。部屋は手狭にはなっていないか?」
エヴァンからの問いかけに、ネイサンは驚くように目を瞬いてから、何度も大きく頷いた。
「むしろ広々と使わせていただいているくらいで、何も問題はありません。僕たちのような使用人にまでお気遣いいただいて、ありがとうございます」
「そんな恐縮するようなことではないだろう。この邸宅にも、部屋は他にもたくさんあるのだから。もし不都合なことがあったら、いつでもギルバートに言うといい」
「そんな、邸宅にあるお部屋はご主人様やお客様のためにあるものですから」
「滅多に使わないものを、大事に取っておいても仕方がない」
ごく自然なことだと笑うエヴァンだが、彼の発言と使用人への待遇は、この世界では極めて異例のことであった。
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