最後のとりで

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由衣が2才の時だ。 反抗期で ご飯を食べないで 床に落としまくった時期があった。 それを見て限界に達した春輝は 「いい加減にしろ!」 と手を振りかぶった。 私は咄嗟に 春輝を思いきり突き飛ばし 春輝を見据えながら 胸の中でもう1人の私がこう言ったのだ。 『ゆいにてをあげてみろ オマエをきずつけてでも ゆいをまもってみせる』 冷たく確かな声だった。 夫婦の絆はもろい。 ひとたび亀裂が入れば簡単に壊れる。 そんな繋がりのはかなさを感じるたびに 決まって父の姿を思い出すのだ。 母を殴った姿でなく 家庭裁判所の簡素な一室で 言葉を失った、あの時の父の顔を。
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