異世界トラック

1/1
前へ
/110ページ
次へ

異世界トラック

 この国の若年層の死因、その第1位は自殺である。  自殺が1位である国は先進国の中でもこの国だけの特徴となっている。  関係の無い話だが、現在この国の流通業界は深刻な人材不足にある。  更に関係の無い話だが、この国の宗教的文化の一つにこんな都市伝説がある。  トラックに願いを込めて飛び込めば異世界への扉が開かれる、と。  これらの話に一切の関連性は無い。絶対にだ。  しかし何故か、今日もまた一人の女子高生がトラックに身を投げようとしていた。  都市伝説によれば、印象的な死は異世界で得られる能力に影響する可能性がある。  女子高生小林ヤバ子はその名の不幸を呪い、歩道橋を全速力で走った。そして地を力いっぱい蹴り出して、その柵を背面飛びで一気に飛び越えた。  その美しい放物線の先には長距離トラック。  落下中の小林ヤバ子と運転手の目が合う。  予測不可能な事態に運転手は驚き、ブレーキを蹴り付け、眼を瞑り、祈った。  やがてトラックは停止した。運転手の脳裏を駆け巡る走馬灯。  これからは人殺しとして終わった人生の消化のみが始まる、その事実が彼の心を死に等しいところまで追いやった。  この国に安楽死さえあれば少しは自殺も減ったのかも知れないが、全て後の祭り。  この国の貴重な流通業界の人材がまた一人失われた。  運転手は恐る恐る目を開いた。  目の前には何も無く、ただひたすらに広大な荒野が広がるばかりだった。 (ああ、ここがあの世ってやつか……)  男は思った。 「ん? てか死んだの俺じゃなくね?」 (普通に道路を走っていたはずなのに、何でこんな荒野にいるんだ……?) 「もしかして、異世界転移したのって……俺?」
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加