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そして、今読み上げた名前こそがこの体の名前だと理解した。
「あんなことがあったから、ショックで記憶がなくなってしまったのね」
アデリーナ改め、リナには母親の言うあんなことが何かは分からなかったが、記憶をなくしたということ理解してもらえたのは僥幸だ。
「母の言うとおり、何も思い出せない。何があったか教えてほしい」
リナの母親だとわかっていても、染み付いた警戒心は解けない。
カタコトになりながらも母親に尋ねる。
まずは現状把握が優先だった。
「何も思い出せないの?」
リナがコクリと頷けば、心配そうな表情を向けられる。
娘が記憶喪失になれば、普通の母親は心配するだろう。
しかし、アデリーナとしての記憶を持ったままリナになった彼女には理解し難い。
「母、教えて。わたしに何があったのか」
リナの眼力に負け、母親は口を開く。
「じゃあ、まずはあなた自身のことから教えるわ。すぐに思い出すかもしれないけど」
そう前置きをして話し始めた。
「あなたは私、杵塚蒼藍の娘よ。小学校の4年生で、10歳になったばかりね」
リナとしてのことを聞いても、何も思い出せない。
「この病院に入院する前、リナの学校で事件が起きたの」
母、蒼藍の口から『事件』という単語が出たとき、リナの心臓の鼓動が速くなった。
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