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杵塚リナとして、体が『事件』を覚えているのだろうか。
無意識に強張ったリナの顔を見た蒼藍は、心配そうな表情で口を噤む。
「母、その事件ってなに?」
リナは速くなる鼓動の正体を探るべく、事件について尋ねた。
「リナの担任の先生が亡くなったの。学校の、ウサギ小屋で」
言いにくそうに、しかし、隠すことなく蒼藍が答える。
あえて『亡くなった』という言い方をしているが、殺害されたのだということをリナは察した。
「ウサギ小屋」
その単語を口にした瞬間、心臓が跳ねるような感覚を覚えたリナ。
見たことのない、覚えのない記憶が脳内に流れ込んでくる。
早朝のウサギ小屋――餌やり当番だった杵塚リナは、担任の女性教諭・朝月が倒れているのを見つけた。
彼女の首にはタオルが巻かれていて、傍らにはウサギの死骸とカッターナイフが。
「……リナ」
名前を呼ばれ、抱きしめられるたリナは蒼藍を見上げる。
そこにあったのは、娘を心配する母親の顔だった。
「ありがとう、母。少し思い出せた」
アデリーナだった頃の記憶があるリナは、死体を見たくらいで驚かない。
朝月が殺されたのは明白だった。
(――この犯人を突き止めるのが贖いの試練?)
もしそうだとしたら、否が応でも関わらなくてはならない。
リナはどうすべきか思案する。
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