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謎の病
声が揃った三人は顔を見合わせて笑った。
「あぁ、今考えてもこの三言は素晴らしい。お見事だよ、杏。」
「えぇ、泰極様。私はこの三言のお陰でこの十年やって来られました。誠に感謝しております。七杏様。」
「いえいえ、伴修様。お礼は凰扇様に仰ってください。」
そう昔話が落ち着いたところで、泰極王が真剣な顔をして話し始めた。
「伴修将軍、雅里殿は医者だと言ったな。ならば一つ、聴いてもらいたい事があるのだが。」
言い終えて泰極王は七杏妃を見た。七杏妃も真剣な顔になり大きく頷く。
その様子に伴修も真顔になった。
「泰極様、何でしょう? 私共でお力になれる事であれば何でも致します。どうぞお話しください。」
泰極王は七杏妃と頷き合うと、
「実は・・・ 我らの娘の事なのだが、九歳になる娘がこのところ妙なのだ。夢を見ているようなのだが、それが真のようでもあって。娘が目覚めると手が汚れていたり濡れていたり、花弁がついていたりするのだ。ひどく疲れている時もあれば怖がっている時もあって・・・ 何かの病ではないかと案じておる。医者にも診せたのだがはっきりとせぬのだ。」
「私も心配で娘と一緒に寝てみたのですが、とても静かに朝まで眠っている様子。夜中に歩き回るでもなく横になっているのに、朝目覚めると異変があるのです。」
「なるほど。それは確かに妙ですね。私では全く分かりませぬ故、雅里を一度伺わせましょう。」
力強い伴修の言葉に
「頼む。そうしてもらえると有り難い。」
と泰極王が頭を下げ、七杏妃もそれに習った。
「いやいや、お止め下さい。どうぞお顔を上げてください。お二人には出来る限り尽くさせて頂きたいのですから。それと・・・ 私からも一つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」
「何でしょう? 伴修将軍も何か気がかりな事がおありで?」
「えぇ、七杏様。実は・・・ 先程の大広間での事なのですが、私は幻を見たのかと気になっておりまして。紅白の光霧が現れ、我が娘を包み込みましたよね・・・」
泰極王と七杏妃は、顔を見合わせて笑った。
「伴修。あれは真だ。幻ではない。私と七杏の護符の法力が現れた証の光霧だ。だが、あのように現れたのは初めてで我々も驚いた。」
「そうなのです。今までは私たちの身の危険や、泰様との情絲を知らせる時にだけ光っていたの。でも、先程のはどのような意味なのかしら・・・」
七杏妃はそう言いながら胸の護符に触れた。
「我らの身の危険でもなく、情絲についてでもない。しかも護符の光霧が一つになり伴修の娘子を包み込んだ・・・」
「えぇ、まるで法力をかけて頂いてるかのように紅白の光霧が娘を包み込んでくださいました。私は、お二人の護符の法力を見るのも初めてでしたので、ただただ驚いてしまって。」
伴修が言うと、泰極王が思い出したように、
「あぁ、そうか。伴修は、七夕節の後すぐに西方へ発ったのだったな。」
「えぇ、お二人の婚約を知った後すぐに。婚礼の前に西方へ向かいました。ですが噂は聞いております。婚礼の時に、お二人の護符が光り瑞兆が現れたと。私も拝見したかったです。」
「あぁ、とても美しい瑞兆だった。だが、先程の光霧も婚礼の時に負けず美しかったぞ。」
「えぇ、美しく力強い光霧でしたわ。あれは一体、何を意味しているのでしょう? ねぇ、泰様。」
しばらく黙り込み何か思案している様子の泰極が口を開き、
「なぁ、伴修。一つ思う所がある。近々一緒に龍峰山へ上ってはくれぬか?」
「龍峰山・・・ ですか?」
「あぁ、なに心配はいらぬ。龍鳳様に会いに行くのだ。」
「何か・・・ あるのですね。ならば、お供致します。」
「うん。頼む。」
泰極王と伴修は近々、龍峰山へ上がることを約束し、雅里との馴れ初め話からも解放された伴修は将軍府へと帰って行った。
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