~龍峰山の誓い~ 二人の父と若き情絲

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~龍峰山の誓い~ 二人の父と若き情絲

 新しい年が明け、夜空に今年初めての満月が昇り始めた。泰極王と伴修は龍峰山の麓にいる。上質な酒と香を持って。  二人は龍峰山を黙々と上り泉のあるところまで来ると、酒と香を供えた。そして、龍鳳の訪れを待った。しばらく待っていると高貴な香と甘い酒の匂いが漂い龍鳳が現れた。 「おやおや、これは英雄がおそろいでお越しとは。これまたどうした事か?」 龍凰は、笑みを浮かべている。 「龍鳳様。実は、伺いたい事がございまして。今宵、伴修と共に参りました。」 「むふふっ。泰極よ、頑張っておるのう。感心。感心。立派な即位式じゃったぞ。これで辰斗王も空心と語らい悠々と暮らせるのう。伴修もよう戻った。随分と器が大きくなったようで、頼もしい限りじゃ。」 と満足そうに頷く。  その様子に安心して泰極王が話し始めた。 「実は、護符の事にございます。先日、伴修が戻りました時に娘子を連れて参りました。それで・・・」 「おうおう、分かっておる。護符が光って光霧が現れたのじゃろう。そなたのと七杏の物と二つ。」 「はい。そうなのでございます。私は護符の法力の光霧を見たのも初めてでしたので、驚きました。しかも、その光霧が我が娘を包んだので言葉もありませんでした。」 「はははっ。伴修よ。そなたは元々、言葉数が少ないからな。むふふっ。」 龍鳳は悪戯でもするかのように笑った。 「はぁ・・・ それについてはお恥ずかしい限り。若気の至りでございます。」 伴修は顔を紅らめて下を向き黙ってしまった。  それを見て泰極王は、 「龍鳳様。それは昔の話にございます。今や伴修は立派に妻子を持ち、私の右腕となって蒼天の為に働いてくれております。私は伴修をとても信頼しております。それは、七杏も同じにございます。」 と力強く言った。 「あぁ、分かっておる。分かっておる。少しばかり昔話をして、からかってみただけじゃ。はははっ。そなた達は、あの光霧の意味をどう考えておるのじゃ?」 その龍鳳の言葉に、泰極王と伴修は顔を見合わせた。互いに胸に浮かぶ私案を口にするのをためらっている。 「どうした? それぞれ思う所はあるのじゃろ? 言うてみよ。」 龍鳳に促され泰極王が口を開く。 「はっ。もしやあの光霧は、我が息子にも関わることかと思っております。元々この紅真導符は、私と七杏の情絲と身を守る物。ですから、伴修の娘子の身を守りその魂の情絲を守ることに関わる物かと・・・」 「私も泰極王と同じ考えにございます。娘の紫雲と蒼天王府とに何か大切な関わりがあるのかもしれぬと。ですがもしそうであれば、恐れ多い事とも思っております。」 「むふふっ。伴修よ、正直でよろしい。確かにかつての事を思えば、そなたがそう思うのも無理はない。それに今は、泰極王との信頼があるにせよまだ日が浅いもの。辰斗王と文世の信頼や絆に比べたら、まだまだ若く浅いものじゃ。」 「龍鳳様。確かにそうかもしれませぬ。ですが私はあの時、伴修将軍の地位を解かずに据え置き十年の時を経てこうして玄京の都に戻って来てくれたことを、今は誠に嬉しく思っているのです。」 泰極王のなんとも力強い言葉だ。 「泰極王・・・ 感謝致します。」 胸を熱くした伴修は涙声だった。  そして、ぽつぽつと言葉を続ける。 「私は、将軍の地位を解かれずに西方へ送られた意味を一人でずっと考えておりました。武術の腕には自信がありました。ですが腕の立つ者なら、軍部には他にもたくさんおります。七杏様にあのような失礼な事をした私を、なぜ将軍のまま辰斗王と泰極様は残してくれたのかと。考えても考えても答えは出ませんでした。  そして思ったのです。そのお気持ちには背かぬよう務めようと。蒼天の為、辰斗王と泰極様に尽くそうと。これほどまでに私を信じてくれる方々の心を悲しませぬようにと、心に決めました。今も、これからもその心は変わりません。」 言い終えた伴修は涙をこぼしていた。 「うむ。伴修よ、よく言った。そなたの心はよく分かったぞ。その忠誠と熱い想いが、時をかけ太い絆となる。なぜ地位を解かなかったのか? なぜ生涯尽くそうと思ったのか? 結局のところそなた達は、互いに好いておるのじゃよ。」 龍鳳が優しく言った。 「えぇ、そうかもしれませぬ。龍鳳様。  あの時、父上に伴修の将軍の地位を解かぬようお願いした時、私自身も不思議でした。なぜそう思うのかと。ですが確信があったのです。後々の蒼天の為に失ってはならぬ男だと。  今思えば、私が友として、男として、武人として伴修を好きだったのかもしれませぬ。将来、共に助け合い励まし合い蒼天を担って欲しいと感じていたのかも。私はずっと、父上と文世様の絆に憧れておりました。子供の頃からずっと。私にもそのような友が出来るだろうか? と思っておりました。」 そう話す泰極王の横で、伴修は涙をこぼしながらうつむいている。 「うむ。泰極王よ。そなたは幼い頃からその螺鈿の護符を身に付けていた。それ故、よこしまな心の者は近づけなかった。そなたの心に入り込む事を許さなかったのだ。だから、真の友が現れぬ限り護符は認めなかったのじゃよ。寂しい想いもしたかもしれぬが、皇太子としては十分に護られていたという事じゃ。だが、伴修はその護符の法力にも認められたようじゃのう。」 伴修はハッとして顔を上げた。 「龍鳳様。それは誠の事なのでしょうか? もしそうなら、私にはもったいなき事にございます。」 「何を言う、伴修。私には伴修の力が必要なのだ。今は、はっきりと分かる。私は無二の友として伴修にいて欲しいのだと。」 「泰極様。もったいなきお言葉。ですが、私には言葉が・・・ 私は、あなたを愛しています。これしか申し上げられません。」 「それでよい。伴修はそれで十分だ。私にには分かる。無二の友として、蒼天の将軍として、私の側に居てくれるか?」 泰極王は、伴修の手を取った。  伴修はその手を握り返し涙をこぼしながら、 「はい。命ある限り泰極様のお側に。」 と力強く言った。 「ほうほう。誠に美しいのう。頼もしい限りじゃ。蒼天は善き国じゃ。何とも懐かしい趣きじゃのう。昔、七杏が生まれた時に、この龍峰山へやって来た辰斗王と文世の姿を思い出したぞ。あの二人も、このような様子じゃったわ。」 泰極王も涙をこぼし、伴修と手を力強く取り合った。 「して、今宵の大事な話だが。そなたらの絆あっての話なのだが、紅真導符はすでに見抜いておったという事じゃ。そなたら二人の信頼も絆も。そこでこれより後の世、将来の蒼天の為に教えてくれたという事じゃ。」 「もしやそれは、我が父上と文世様が願った事でしょうか?」 「泰極王、その通り。その意味するところは何か分かるな?」 龍凰は、ニヤリと首をかしげ、泰極王を見据えた。
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