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紫雲の光霧
龍鳳に問われた泰極王は、
「はい。その意味は我が息子、獅火と伴修の娘、紫雲との情絲にございます。二人を許婚とし時を待ち娶せるという事では?」
「そうだ。その通りじゃ。伴修よ、分かるな。そなたの娘は、この後の蒼天を担う大事な一翼となるのだ。」
「まさか・・・ 誠にそのような栄誉と重責が紫雲に?」
確かな言葉となって明らかにされた娘の将来に、伴修は心が震えた。そんな伴修の肩に触れて、泰極王は穏やかに言う。
「伴修、私は嬉しく思う。そなたの娘なら安心だ。獅火にとっては、またとない良縁だ。そうか・・・ 今ならよく分かる。父上と文世様の気持ちがよく分かる。龍鳳様、よく分かります。」
しみじみと泰極王を見つめる龍鳳は、答えた。
「泰極王、そなたも父になったのだのう。そうだ。そういう心だ。護符の法力を授かってまでも娶せたかったという心は、今そなたの胸に在るものと同じじゃ。」
「あぁ、もったいなき程の良縁にございます。私ばかりでなく娘まで、この蒼天の為に大きく貢献できるとは・・・ しかもその道が獅火様に嫁ぐとあらば・・・ 泰極様。」
「おお、伴修。そう思ってくれるか。善かった。やはり無二の友だ。今は幼き二人も、きっと我らのように二人助け合って添い遂げるであろう。」
泰極王と伴修は喜び合った。
しかしすぐに、互いが知る七杏妃をめぐって起きた事件が胸に浮かんだ。またあのような事件が繰り返されるやもしれぬと。
「龍鳳様。獅火はまだ七つ。紫雲は三つにございます。互いを娶せすまでには十年、いや十五年はございます。二人を守る手立てはないでしょうか?」
泰極王が聞いた。
すると伴修が、
「私がこのような事を申し上げるのもおこがましい限りですが、子どもたちの情絲と身を守る手立てを何か・・・」
と申し訳なさそうに言った。
「はははっ。伴修よ、時の巡りとは面白いものじゃな。そなたの口からこのような願いを聞く日が来ようとはな。ふふふっ。まぁよい。それが因縁というものじゃな。
獅火と紫雲の情絲と身を守る事は、この蒼天の為。幼き二人の為に〈唯幻合輪〉を授けよう。」
龍鳳は、二人に一つに繋がった金色の二つの輪を見せた。そして、二つの輪を重ね合わせ一つの輪にして目の前にかざすと
「この輪の中をのぞいて見よ。」
と言い、一つに重ねた輪の端を持ち二人にのぞかせた。
すると、輪の向こうに夜空が見えた。その輪の中の夜空には鼓の三ッ星が見え、その隣に蠍の赤星が現れた。
「あっ、在り得ぬ。夜空に参商が寄り添い並んでいる。」
泰極王が驚きの声を上げた。
「まさか・・・ 参商が並んで見えるなんて・・・」
伴修も口を開けたまま輪の中を覗いている。
「その通り。この世の夜空では在り得ぬ事じゃ。
だが、この唯幻合輪の中では起こり得るのじゃよ。これは、唯の世と幻の世を合わせる輪。この一双の輪がこうして合わされば、この世の道理ともう一つの世の道理を一つの世の中に見ることが出来る。二つの世を行き来する事も出来るのだ。
まぁ、その事はいずれ分かるであろう。それよりも今は、獅火と紫雲の事だ。
泰極王、息子になぜ ‘獅火’ と名付けた?」
「えっ? 獅火は・・・ 産まれたのが八月八日の早朝で、まだ夜空に商が残っており蠍の赤星が輝いていたのです。あの赤星は、大将の星とも呼ばれおります故、夏の獅子と赤星から将来の王に相応しいと獅火と名付けました。」
「うむ。まだ幼いがその名の通り勇ましく闊達で、情も厚いが少々気位が高くやんちゃだな。」
「はい・・・ 龍鳳様。その通りでございます。いささか過ぎた名を付けてしまったかと、時々思う事がございます。もう少し穏やかな名を付ければよかったかと・・・」
泰極王は苦笑いした。
「はははっ。仕方のない事よ。だがな、彼はその質を元々持って生まれて来たのじゃ。つまりな、生まれた地に獅子の質を持ち、天には蠍の赤星の質を持つ機に生まれたのじゃ。」
「はっ。なるほど確かに。その通りでございます。」
「だからな、激しい質は仕方のない事。ましてや王家に生まれた皇子じゃ。そのぐらい強い質を内に持っていなければ、これからの世は務まらぬ。」
「龍鳳様にそう言って頂けると少しは楽になりますが、大人になるまでに穏やかさと優しさ、情けも深く持ち合わせて欲しいものです。」
「なに、案ずるな。これからしっかり身に付けてゆく故、案ずるな。それには、紫雲が欠かせぬのじゃよ。」
「えっ、紫雲がですか?」
泰極王は、目を見開いた。
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