桜の下で背をはかる

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 桜は花が咲いている時しか喋らない。だから、僕が桜と会話できるのは春の間だけだ。最初の頃はそれが分からなかったから、たまに寂しい思いもした。一番最初の年なんて、桜は最後の花びらを散らしながら、ドラマチックに別れを告げた。 「さ…よな…ら…。けん…すけ…。どうか…しあわせに…」  最後の一片が散るのと同時に、声は震えて霞んでやがて聞こえなくなった。純情だった僕は「行かないで!!!」って叫んで木の幹に縋り付いて、周りから随分と心配されたものだった。ところが。次の年の春、最初のつぼみが花開いた瞬間、桜は爆音でこういったのだ。 「ひゃっほおうううううう!!戻ってきたよ、健介、さびしかった???」  僕は唖然とした。 「え?戻ってこれるの?」 「いや、実は自分でも確信が持てなかったんだけど、どうもそういうシステムみたい」 「システム?」 「や、なんか花が咲くと目が覚めるみたいなシステム?」  そんな、疑問形で言われたって、僕にはどうしようもない。 「でもこれで、少なくとも年に一回は健介と会えるね」  桜はとても満足げだった。
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