桜の下で背をはかる

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 ある日、珍しく桜がぷんぷんと怒っていた。 「二丁目の遠藤さん、この前離婚したばかりなのにもう再婚するんだって」  僕は遠藤さんの顔を思い浮かべた。人のよさそうなおじさん、と言う意外の感想が特に浮かばない。 「いいんじゃないの、人の勝手でしょ」 「人間って、意外と薄情だよね。結構長く連れ添ったのにあっさり忘れて次の人に行けちゃうんだもん。桜はね、仲良くなったヒヨドリが居なくなったからってすぐに忘れて次の鳥と仲良くなったりしないよ。ちゃんと覚えてる」 「でもそれって、覚えてるほうが辛かったりするんじゃないの?いつまでも寂しいってことでしょ?」  指摘してやると桜はぐぬう、と押し黙った。 「健介はじゃあ、もし桜が枯れちゃったら、あっという間に新しい木を植えちゃうの?」  そんなことはないけれど。 「自分だって色々忘れてることあるだろ?」  例えば自分が昔は人間だったこととかさ。
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