桜の下で背をはかる

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 母ちゃんが亡くなったのは七年前の一月のこと。桜が喋り始めたのはその年の春。  母ちゃんは呑気で、剽軽(ひょうきん)で、大河ドラマを観るのが趣味で、僕のことなら何でも知りたがった。150センチと小柄な割にエネルギッシュで、いつもくるくると家の中を動き回って、たまに変なダンスを踊った。  専業主婦でずっと家に居るから外の世界のこと知りたいんだもん、って毎日幼稚園のことを根掘り葉掘り質問してきた。父ちゃんが、じゃあ外に出て働けばいいじゃん、って言ったら、でもそれじゃご飯作る時間が、とか、お金に困ってるわけじゃないし、とかのらりくらりとかわし続けて。僕が喋る大したことない日常の話をニコニコと楽しそうに聞いていた。  面倒くさがって健康診断も受けていなかったから、病気が見つかったらあとはあっという間だった。お葬式が済んで、家の中がしん、として、涙も乾かないうちに春が来て、そして桜が言った。 「今日は何するの?」  もちろん、僕にはすぐにピンときた。喋り方が母ちゃんそっくりだったから。でも、桜に「母ちゃんでしょ?」と問いかけても、桜は曖昧にそわそわするだけだった。 「ほら、その辺はなんか有耶無耶にしとくことになってるみたい。そういうシステムみたい」 「システム?」 「そう、システム」
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