桜の下で背をはかる

5/13
前へ
/13ページ
次へ
 桜がそのアニメを見てみたいと無茶なことを言うから、コミック本をもって桜のところに行って、木の下に腰かけてページを開いた。さすがにテレビを外に持ってくることは出来ない。 「ちょっと見にくいな。もうちょっと右によって、そうそう、あともう少しゆっくり(ページ)をめくってよ。細かいところまで見たいから」  なんて我儘な桜なんだ。  コミック本を読み終えると桜は「なんかもうちょっと、話にが欲しいよね」と分かったようなことを言った。未就学児向けのコミックになんか求めないで欲しい。  また、ある時は桜は僕にお弁当を持ってきて桜の木の下で食べて欲しい、と言った。 「健介がお弁当食べてるとこ、見てみたい」 「だって桜はご飯食べられないでしょ?」 「分かってないなあ。見てるだけでも楽しいんだよ」  軽く握ったおにぎりとミニトマトとウインナーだけの簡単なお弁当をこっそり作って持って行って、桜の木の下に新聞紙を敷いて座って食べた。道行く人が「あら、一人でピクニック?」とにこにこするので恥ずかしかった。  桜が満足そうにふるふると枝を震わせたので、花びらが一枚ひらひらとミニトマトの上に降ってきた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加