桜の下で背をはかる

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 僕が学校で苛められて泣きべそをかきながら家に帰った時には、桜はその太い幹を震わせて激怒した。 「学校に、言わないと!」  その場から動けもしないくせに声だけは地団太を踏む勢いで怒るものだから、驚いて僕の涙も引っ込んでしまった。 「もういいよ」 「よくないよ!」 「もういいって」  ぷりぷりと怒った桜は、その日は口数少なく何かを考えこんでいるようだった。でも次の日になったらけろっとしてこう言った。 「知り合いの鳩に、いじめっ子の頭の上に落っことしといてってお願いしたよ」  特大のナニ?と聞き返そうとして、やめた。大人がよく言う、知らぬが仏、ってやつだ。  桜は僕のすることならなんでも興味があるみたいだった。 「人間って面白いよね」  桜は言った。 「よく考えたら、こうやって食べたり本読んだり学校行ったりさ、当たり前みたいにしてるけど、当たり前じゃないんだよね」 「桜は人間に生まれ変わりたい?」  そう問いかけたけれど、桜は答えなかった。代わりに、さらさらと花を揺らして見せた。
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