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セレクトショップ
日和が服を買いに行ったセレクトショップは、表参道の大通りから少し離れた静かな住宅街にあった。
二度ほど姉さんに連れて行かれたことがあるが、一人で行くのは初めてだ。
こんな一等地だとどれくらいの家賃が掛かるのだろう。その高い家賃が払えるくらい儲かってるということか。
日和は子供時代をお金に厳しい祖父の元で過ごしたお陰で、裕福な割に庶民的な金銭感覚を持っていた。自分でもそれを誇りに思っている。
セレクトショップは一応完全予約制だった。
『常連や上客なら、予約なしで大丈夫だよ』姉さんは自慢気に言っていたが、日和にはそんな勇気はなかったので、大人しく予約した。
慣れない道で車を恐る恐る走らせていると、ダークグレーの二階建ての建物が見えて来た。周りを塀に囲まれた、一戸建てに見えるその建物が目当てのセレクトショップだった。
ガレージの前で運転席から手を伸ばしてあらかじめ知らされている暗証番号を押すと、静々とシャッターが開いた。
その中にはジープでも4、5台は止められそうな広い駐車場がある。今日は他の車が見当たらないので、どうやら日和の他に客はいないようだ。
エントランスの前で、以前もエスコートしてくれた店員さんが手を揃えて控えめな笑顔で頭を下げている。
コンパクトカーのMINIで来るような場所じゃなかったかもしれない。
前回は義兄さんの持っているレクサスかなんかで来たのだ。
こんなことなら、稔君のベンツを借りて来れば良かった。
「お久しぶりです。高輪です」
「こんにちは」
高輪さんは品の良いダークグレーのスーツに濃紺のネクタイをしていた。
導かれるまま店内に入ると、アンティークのソファとテーブルがある部屋に通される。濃紺の壁紙は、重厚感がある。
「お飲み物は紅茶でよろしいですか?」
「ありがとうございます。いただきます」
高輪さんは控えめな笑顔で一礼すると奥へ消えた。
僕の好みを覚えていた。顧客情報を細かく管理してるのだろう。
目の前のハンガーラックには、いくつか服がかけられている。これも以前僕が買った物を参考にしてあらかじめ選んでおいたのだろう。
怖いな。こういう店。
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