いつもと変わらない日和さんの話

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いつもと変わらない日和さんの話

日和さんがいつもと変わらず楽しくなさそうな顔で浜辺を歩いている。 表情はいつもと変わらないけど今日は珍しくお洒落な装いをしていた。 柔らかそうな生地のモカベージュ色のシャツ、その上にはブルーのカジュアルなダウンジャケット。動きやすそうなパンツはおそらくジャージ素材だろう。 全てネットで見たことのある有名ブランドの新作だった。 服に気を使わない日和さんがそんな服装をしているなんて、どうしたことだろう?稔は不思議に思った。 「その服似合いますね」 声をかけると、もともと暗い顔が更に暗くなった気がした。 「プレゼントですか?」 「違うよ。姉さんに少しは良い服を着ろと言われたから買ったんだ」 「ああ、そうなんですね」 日和さんのお姉さんなら、そんなことを言いそうだ。 「日和はそんな格好で、週末に海へ行くの?黒澤のご両親と一緒なんでしょ?」 「うん」 「もう少しキチンとした服を着たほうがいいよ」 日和はそれなりに裕福な家庭に生まれ育った。小さい頃は家族が買ってくれた高い服を着ていたが、自分でお金の管理をするようになったら、ブランド物の服に大金を払う気がしなくなった。 だからいつも手頃な値段で質のいい、シンプルな服を着ていた。 どうせ仕事の時はスーツだし。いいやと思っていた。 「稔君はいつもお洒落じゃない?日和も少しは気をつけないとね」 「まあ、そうだね」 姉の言う通り稔君はお洒落だった。
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