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家に帰った俺は、咲良さんのことばかり考えていた。
百人一首を好きな女の子がクラスにいるとは思っていなかった。
ちょっと無表情な感じの子だけど、笑うとかわいい。
俺の中でどんどん妄想が膨らむ。
百人一首が好きな咲良さんは、きっと俺のことを好きに違いない。
なんて勝手な妄想なのだろうと自分でも思うが、そうであってほしいという俺自身の期待が、冷静な判断力を失わせていた。
『みちのくの しのぶもじずり 誰ゆえに 乱れそめにし 我ならなくに』
私の心が乱れ始めたのは誰のせいでしょう。それは私のせいではなく、あなたのせいなのです。
実際に恋することで、恋を詠んだ和歌になんだか共感できるようになった気がする。
今日はなんだか寝付けそうにもない。
俺は、窓の外の月を見てみた。
美しい満月だった。
『嘆けとて 月やわものを 思わする かこち顔なる 我が涙かな』
昔の人は月を見て、愛しいあの人も今頃は同じ月を見ているのだろうか、なんて思いにふけったという。
咲良さんも、今頃、俺と同じように眠れなくて、こうして月を見ていたりして。
あぁ、また変な妄想をしてしまった。
明日は、全校百人一首大会の本番だ。
妄想ばかりしていないで、早く寝なくては……
夢に、咲良さんが出てきたらいいな……
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