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「花の色は うつりにけりな……」
「はい!」
またしても、咲良さんが札を取る。
俊敏かつ優雅な動き、そして、揺れるポニーテール……
札を取るときの真剣な表情は、とても美しい。
そして、札を取った後に見せる笑顔は、とびきりかわいい。
俺はずっと、咲良さんの方を見ていた。
俺の視線に気づいたのか、咲良さんは再び俺の方を見る。
慌てて視線をそらす俺。
ずっと見ていたのがバレたのかも。
もう、これ以上は咲良さんを見ないようにしなくては。
隣のクラスメイトが俺にささやく。
「恭介、急に取れなくなったな。どうした?」
「い……いや……別に……」
俺は動揺を隠せなかった。
ちなみに、この歌は世界三大美人の一人と言われている小野小町が詠んだものだ。
百人一首の中で、唯一、肖像画が後ろ姿で書かれている札である。
世界三大美人の一人である小野小町の顔を安易に描くわけにはいかない。そういう理由で、百人一首では後ろ姿で描かれ、顔が隠された札となっている。
俺の中で、小野小町のイメージが咲良さんと重なる。
『花の色は うつりにけりな いたずらに わが身世にふる ながめせしまに』
恋のことを考えているうちに桜は散ってしまい、無駄に時が過ぎてしまった、という歌だ。
なんだか、俺の心を見透かしたかのような歌だった。
ここのところ、札も全然取れていないし、このままでは一位になれないかもしれない。
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