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そこは――とても暗い空間だった、月のない夜よりも。そして—広かった、認識できないほど。
そしてわたしはそこにいた――いや、わたしがそこにいる以上、一人称語り部の小説としてはそこではなくここと表現するべきかもしれないが…、まあそれはこんな地獄みたいなところにいることが認められない気弱で脆弱なわたしの心情を表している、とでも思ってくれ。
わたし――黒髪に赤が混じった腰まで届くロングの暗違月葉という名の女の子である。
わたしがなぜこんなところにいるのか? それはわたし自身が最も知りたいアンサーだ。ここに十台の携帯電話と九人の人間があれば、すぐに怪人アンサーに電話してそれを訊く。他の九人はどうするのかって?知らん、放っとけ。というかわたしは何も知らないのだ—何も憶えていない。記憶喪失といえばわかりやすいだろうか。
「もう何日も前からここにいる気がするな」
十分前からここにいる気もするが。
とまあ、そんな矛盾を胸に秘めながら暗闇をとぼとぼと歩いているわけだが、その暗闇のせいで気でも狂ったのか、
「やあ、m…暗違ちゃん」
という幻聴が聞こえてきた。
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