オレンジ色のカーネーション

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「城田?」  勤め先の創作居酒屋に真人先輩が現れたのは、働き始めて半年くらい経った頃だった。  高校を卒業したあと、私は調理製菓専門学校に進学した。そこで調理師免許を取り、ホテル内のレストランに就職したが、激務に加えて様々な人間関係のトラブルに疲れ果て、僅か二年で辞めてしまった。  その後務めたのが、創作居酒屋『黄昏(たそがれ)』。客として何度か訪れていたところ、ある日突然スカウトされた。  なんでも、従業員の女性が結婚退職するとのことで、急遽人手が足りなくなったというのだ。ちょうど次の仕事を探していた私は、二つ返事で承諾した。 「久しぶりだなぁ。何年ぶり?」  宙空に視線を這わせ、指折り数えるその横顔は、私の良く知る真人先輩と変わらなかった。 「なになに? 知り合い?」  連れの男性が、先輩に詰め寄る。 「ああ、後輩。中高の」  クラフトビールを美味しそうにぐびりとやりながら、先輩が答えた。 「へぇ、後輩」  職場の同僚だという柏木(かしわぎ)さんが、意味ありげに私たちを見比べたあと、「それだけ?」彼はにやけながらそう言った。
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