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「真人先輩」
最後のお別れ。棺の中で眠る真人先輩は、とても穏やかな表情をしていた。
「ずっと、あなたが好きでした」
もう決して応えてはもらえない何度目かの告白を添え、オレンジ色のカーネーションを胸の上にそっと置く。
花言葉は、『純粋な愛』。「重いよ」って言われそうだけど、最後だから許してね。
泣き崩れてしまわないうちに、私は会場を後にした。
外に出ると、羽毛のような雪が舞っていた。
雲の切れ間から陽が差し込み、いくつもの光の道を作っている。
「さよなら」
眩しさに目を細め、私は小さく呟いた。
バッグからスマホを取り出し、トークアプリを開く。
『これから行くね』
そのまま梨々子にメッセージを送った。
『お疲れ様。早くおいで。今日はとことん付き合ってやる』
すぐに梨々子から返信がくる。一升瓶を持つタヌキのスタンプに思わず吹き出し、同時に涙が溢れてきた。
柏木さんが言っていた、真人先輩の気になる人って?
やっと自分の気持ちに気づいたって、どういうこと?
聞きたいことはたくさんある。
言いたいこともたくさんある。
でももう何も聞けない。何も話せない。
とめどなく流れる涙が視界を塞ぎ、もう一歩も進めなくなる。
立ちすくむ私の周りを一陣の風が吹き抜け、念入りにブローしたセミロングの髪を掻き上げていった。
「先輩?」
見上げると、いつの間にか頭上には、青い空が広がっていた。
ふわりと舞った雪がひとひら、髪の上に舞い降りる。
「似合ってるじゃん」
なんだかそう、聞こえた気がした。
ふっとひとつ息をつく。
頬の涙を両手の甲でぐいっと拭うと、私は青空の下、大きく一歩踏み出した。
了
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