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 一週間経過したはいいが、雄大と伊織のスケジュールが合わず、特別なことは何も起きていない。いつもどおり、適当にメッセージのやり取りをするくらいのものだ。  この部屋の鍵だって、伊織の母親から預かったものだ。何かあったら、様子を見に行って欲しいと頼まれたのである。  もちろん普段は勝手に使うことはない。伊織に連絡して、言われた時間に伊織の家に来る。けれど今、雄大は伊織と付き合っているのだし、サプライズでもしてみようかと勝手に部屋に入ってみたのである。  部屋を開けたとき、驚くかなあ、と楽しみにしていたのに、伊織が普通すぎる。 (つまんない……)  いつもと同じでは、何のために伊織と付き合ったのかわからない。楽しいことが起きなければ意味がないのだ。 「んんー。なんか違う……」  ぼそりと言ったら、伊織が振り返った。 「あ? なんか言ったか?」  ペットボトルを持って戻ってきた伊織が隣に座る。尻をずらして身体を斜めに向け、雄大は伊織のほうを向いた。 「つまんない!」 「はぁ? 勝手に人んち来て文句言うなよ」 「だって、これじゃあ、いつもと一緒だもん! デートは? 付き合ってる感出してよ!」  唇を突き出して、思いきり文句を言った。伊織は「わかった」と言ったのだ。だったら、デートの一つでも連れて行ってくれるべきである。一週間、誘いもないし、何も起きないなんて、楽しくない。 「付き合ってる感? なんだよそれ」  もともと合鍵だって持っているし、今日だって勝手に家に入っても何も言わなかっただろうと伊織が言う。けれど、雄大が求めているのは、もっとこう、ワクワクするようなこと、なのだ。 「だからさー、こう、なんていうの? なんか、恋人にするようなことして」 「恋人にするようなこと? たとえば?」  たとえば、と聞き返されて「うーん」と雄大は唸った。難しいことを考えてなかったからだ。なんとなく、いつもと違う感じにして欲しかっただけ。そうでないと、つまらないから。 (恋人にすること……、手繋ぐだろ、あと、デート。あとは……) 「あ! キス! ちょっとキスしてみて!」  恋人らしいこと、の代表的なものが頭に浮かんで、これだと思った。伊織に抱きついたり、肩を組んだりしたことはあるが、キスはさすがにしたことがない。友達の立場ではしないことだと思う。  張り切って言ったら、伊織が「は?」と言ったまま固まった。 「いや、お前、それは……」  ぱちくりと大きく瞬きをした伊織が身体を引く。雄大は引かれた分だけにじり寄った。 (押したらいけそう)  伊織は基本的に優しい。口はあまりよくないけれど、頼みごとを断られた記憶がない。本気で嫌ならば、伊織だって拒絶するだろう。 「いいじゃん。やってみてよ」 「はぁ……。わかった」  頷いた伊織の顔が近づく。雄大の唇にちょんと当たった伊織の唇は、一瞬で離れていった。 (え? これだけ?) 「これでいいだろ」  唇を離した伊織は、「何バカなこと言ってんだ」と言いながら、ペットボトルのキャップを捻っている。  何事もなかったみたいに伊織はジュースを飲んでいる。変わらない態度。それじゃあ何も楽しくない。 「……よくない」 「なんでだよ。ちゃんとしただろうが」 「もっと、ちゃんとやって」 「ちゃんとって……。ったく、なんなんだよ、もう」  不満を訴えたら、伊織がテーブルにペットボトルを載せた。 (ははっ、伊織困ってる)  眉根を寄せて、ワシワシと髪を掻く伊織の様子に口元が緩む。  楽しい。 「雄大。目、閉じろ」 「やんの? オッケー」  伊織が言うことを聞いてくれたことが嬉しくて、雄大は言われたとおりに目を閉じた。
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