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伊織の手が頭の後ろに回る。先ほどと同じように唇が当たった。伊織の唇が少し開く。閉じていた唇を舌先で舐められた。
「っ……」
舐められた拍子にできた唇の隙間から、伊織の舌が入ってくる。ぬるりと潜り込んできた舌に舌先をつつかれた。
(う、わぁ……)
くるりと雄大の舌を一周するように絡まってきた舌が、上あごを撫でる。ぞわりとした感覚に、「ふっ……」と声が漏れた。
(やっばい……。伊織、いつもこんななの?)
もっとちゃんとして欲しいと頼んだのは雄大だ。伊織は雄大のお願いに応じてくれているだけなのだけれど、予想以上に本格的なキスに戸惑った。
伊織の舌は、舌の上も、裏側も、頬の内側にも触れてくる。荒々しくなくて、ゆったりとした動きだ。雄大が舌を引いたら、伊織の舌が追いかけてくる。雄大が伊織の舌を舐めようとしたら、伊織の舌が逃げていく。絡まって、解けて、口の中で二つの舌が躍っているみたいだ。
「ン、ぅ……」
頭がぼぉっとしてきた。
鼻にかかったような声が漏れる。
(まずい……)
身体に異変が起きそうな、感覚を覚えて、雄大は伊織の腕を掴んだ。絡まっていた舌を引いて、グッと伊織の身体を引きはがす。
「はぁっ……、も、いいっ……」
「はぁ? なんだそれ。やれって言ったのお前だろうが」
やれと言ったり、やめろと言ったり、いったい何なんだ、と伊織に思いきり呆れた顔をされた。
(そうだよ。そうなんだけどっ……)
頼んだのは雄大だし、勝手なことを言っているのはわかっている。けれど、これ以上続けたら、反応してしまいそうだ。反応することが悪いとは思わないけれど、頭がごちゃついている。
「トイレ」
「ちょ、おい。雄大!」
サッとソファから立ち上がり、雄大はトイレに駆け込んだ。
パンツも下ろさずに便器に座り、状況を整理してみる。
雄大は面白いことと楽しいことが好きだ。今までは女としか付き合ったことがない。男と付き合うなんて考えたことはないが、伊織ならまあ、仲もいいし、疑似デートしたり、手を繋いだりするのも平気だと思っていた。あとは、伊織がいつもと違う顔をしたら面白い。だから、付き合ってと言ったし、キスもしてみて欲しいと言ったのだけれど、これは予想外だ。
(もしかしてオレ、意外と男もいけんじゃねぇ?)
伊織とのキスで反応しそうになったということは、これ以上先も楽しめてしまうのかもしれない。実際に他人のものを触ったことはないから、できるのかはわからないけれど、チャレンジしてダメならその時はその時だ。
「……うん。面白そう」
どこまでできるのかは知らないが、やったことがないことをするのは楽しい。
(ま、とりあえずはデート、かな)
一人納得して、トイレのドアを開ける。スタスタと伊織のところまで歩いて行く。
(何してんだ?)
伊織は、真っすぐ前の壁を見つめていた。
「なあ、伊織。いつデートできる?」
「デート?」
「そうそう。してくれるって言ったじゃん」
伊織に言って隣に座り、飲みかけのペットボトルに手を伸ばす。キャップを開けて、ごくりと飲み込む。ペットボトルに口をつけたまま、伊織のほうを見たら、伊織と目が合った。
「……つうかお前、平気なのか?」
「ん?」
(平気? 何のことだ?)
特別体調も悪くないし、雄大はいたって元気だ。聞かれている意味がわからず、首を傾げる。
「……いや、いい。デート、な。お前どこ行きたいの?」
「えっとね……。あ、そうじゃないんだって! オレはお前のデートコースが知りたいの」
「ああ、そう。わかった。じゃ、来週でいいか」
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