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(伊織ってちょっとカッコつけてたりすんのかな?)  デートらしい雰囲気を味わってみようと、雄大は伊織と待ち合わせをしてみた。家から一番近い繁華街の最寄り駅。改札を出て、伊織の姿を探す。きょろきょろと周りを確認していたら、ポスンと頭に何かが乗った。 「挙動不審かよ。何やってんだ」 「うわぁっ! 伊織!」  グイと頭を押されてバランスが崩れる。声をあげたら、伊織がケラケラと笑った。 「っ、ははっ……」 「何すんだよ⁉」  乗っかった手を払って、後ろを向く。唇を尖らせてじとりと伊織を見た。 後ろ向きに体重をかけられたのだ。腰が反ってへんな感覚がする。髪も少し乱れたはずだ。 「とりあえず飯でいいだろ?」 「もーー」  手櫛で髪を撫でつけ、歩き出した伊織のあとを追う。どこに行くのかもわからないまま伊織についていく。  何度か「何食うの?」とか「店遠い?」と聞いてみたけれど、伊織からの返事は曖昧なものだった。 (あれ? ここって……)  伊織が進んでいく道。地元から近いし、知らない道ではない。両サイドを確認して、なんとなく行き先を察した。 「伊織、昼飯って……」 「ああ、うん。こないだお前が食いたいって言ってたとこ」 (やっぱそうだ)  一か月半ほど前。まだ彼女と付き合っていたときに、雄大は伊織の家で雑誌を見ていた。物珍しいものではない。よくあるタウン誌だ。特定の地域にあるお出かけスポットや飲食店が載っている雑誌である。  彼女とのデート先を決めるとき、雄大が参考にしているものだ。行き先がいつも一緒というわけにはいかないし、そんなに色々な場所を知っているわけではない。毎回どこに行けばいいのかわからなくなる。  どこに行こうかと思って雑誌の端を折っていたのだけれど、一つ気になる店があった。女の子を連れて行くには少し戸惑う店。大口を開けて頬張らないといけない、ハンバーガーの店だ。 「ちょっと並んでるな。どうする?」  店の前には数名の客がいた。他の店にするかと聞かれて首を横に振る。 「いい。待つ」 「そ? じゃあ、待つか」 「だってすぐ空きそうじゃん」  ハンバーガーなんて、サクっと食べる食べ物だ。前に並んでいる客も男が多い。食べるのもきっと早いはずだ。  思ったとおり、十分もしない間に雄大たちの順番がやってきた。  店員に案内され、二人掛けのテーブルに座る。 「先決めれば?」 「ああ、うん。ありがと」  メニューを手渡され、受け取る。メニューを開いて、思わずごくりと喉が鳴った。ふっくらしたバンズに、肉厚のパテ。トマトやアボカドが挟まっているものもあるし、とろりとしたチーズがたっぷりと挟まっているものもある。 「……ヤバい。すげー、うまそう」  写真を見ているだけで、唾液が口に溢れてくる。何種類もあるハンバーガーを見つめて、雄大は「うーん」と唸った。 (全部うまそうなんだけど……。どうしよう) 「何? 決まんねえの?」  メニューと睨めっこをしていたら、伊織に聞かれた。頷いてメニューをぱたんとテーブルに広げる。 「これも食いたいし、こっちも食いたい。これもうまそうだし……」 「せめて二つに絞れよ」  分ければいいだろうと言われて、雄大は悩んだあげく二つのハンバーガーを選んだ。
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