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3 妹
妹、孝子の彼氏がわたしに興味を持ったのは、もちろんわたしのせいではない。が、妹にはそう思えなかったようで、わたしが家出をするまで事あるごとに態度に示す。ときには口に出し、非難する。
「お姉ちゃんは勝手だから、いつでも自分のしたいようにするんだから……」
それは事実で且つ実際に起こったことに対する非難だろうが、本当にわたし自身のせいなのか。むしろわたしが当時いた環境や、取り巻いた人々の勝手だったのではなかろうか。どちらにしても子供の頃の話。わたしが中学一年で十二歳、妹は一つ下だから、まだ小学六年生。
あのとき妹の彼氏は公式にはいない人間だ。何故かといえば、彼が大人、それも老人だったから。要するに妹との関係が特殊。かといって、わたしには妹が彼に身体を売っていたとは思えない。
本人自ら歳を明かしたことはないが、わたしが出会ったときの印象では妹の彼氏は七十代前半。けれどもヨボヨボの爺さんではなく、わたしの目前で服を肌蹴たときに見せた腹部には割れた筋肉が逞しい。その下の陰毛はすべて白かったが、性器が真っ黒で毒々しい。
わたしが思わず、
「益田さんはコレを孝子の身体の中に押し込んだの……」
と尋ねると、まさか、というふうな表情を浮かべる。
「そういうのはまた別の手があるからな」
と曖昧に笑う。
「だけど孝子が望めばヤルんでしょ」
わたしが益田さんに畳みかけると、
「あの子にそんなことはできないし、また、あの子だって、わし相手にやろうとは微塵も思っちゃいないだろう」
という返事。
「だけど口封じになるような行為はさせたわけね」
「それは、あの子の考え方次第」
「もしかして指さえ入れてないとか」
「衿子さんはいろいろなことを知っているな。だが実際の経験はないだろう」
「どうして、そんなことがわかるの」
「わしだって子供の頃にはわからなかったさ」
「一々答がずるいのね」
「それもキミの捉え方だ」
「だったら、わたしをどうしたい」
「衿子さんの方は、どうしてみたい。入れてみたいか、しゃぶってみたいか」
「どちらも願い下げ」
「ならば、どうして裸になった。確かにわしが、服を脱いで欲しい、と頼んだが、拒みもせず……」
「自分の反応が見たかったからかな」
「ほほう、そうか」
「益田さんがどんなにイラヤシイ目でわたしを見てもいいけど、妹とは比べないでね」
「わしから見ればどちらも蕾だよ。もっとも妹さんの方は既に女だが……」
「悪かったわね。わたしが本当の子供で……」
「悔しいか」
「別に……。だって他人は他人。それは妹も同じだから……」
「上にお兄さんがいたらしいな」
「まったく孝子はお喋りなんだから……。生まれてすぐに死んだそうよ」
「……とは聞いたが、嘘かもしれない」
「どういう意味……」
「意味なんかないさ。ただ言ってみたまで」
「可笑しなお爺さんね。ねえ、益田さんってロリコンなの」
「事実はそうだろう。キミを見て、こんなになっている」
「ああ、気張って痛そうね。ねえ、わたし、本で読んだ経験しかないけど、手でしてあげましょうか」
「急にどういう風の吹きまわしだ」
「意味なんかないわ。ただ言ってみただけ」
「ははは……。衿子さんは面白いな。ならば頼めばしゃぶってくれるか」
「それはイヤだな。なんか病気になりそうで……」
「なるほど、わしの身体の中には沢山の毒が巡っているか」
「ねえ、奥さんとはしないの」
「妻と最後にセックスをしたのはもう何十年も昔の話だ。アレは最後までセックスが好きじゃなくてね。だから子供を生むためにだけ、わしに抱かれたよ」
「何だか可哀想。益田さん、下手そうには見えないのに……」
「それが相性というものだろう。今でも妻との仲は悪くないぞ。それに子供を三人もうけてからは余計な詮索もしなくなった」
「それはそれで寂しいんじゃない」
「他人と長く一緒に暮らすコツだろうな」
「わたしにはわからない世界だわ」
「そうだったな。キミはまだ中学生一年生だ」
「だけど同じ歳でもセックスしている子はいるわよ。愛だと想ってしている子も、お金儲けだと思ってしている子も……」
「わしらの子供時分もそうだったよ。まあ、相対的に数は少なかったかもしれんが……」
「ねえ、わたしが女になったら、益田さんはわたしを抱きたい」
「衿子さんが望めばな。だが、そうならなければ他所で済ますさ」
「わたしのことを頭に思い描きながら」
「それじゃ相手に失礼だろう」
「思わなければ、わたしに失礼だわ」
「ははは……」
興味というのは怖いもので、それからわたしは益田さんの性器を手で扱く。結構一生懸命やったつもりだが、益田さんの少し黄色く濁った精液が尿道から飛び出るまで二十分以上を費やしてしまう。今ならわかるが、益田さんはやはり老人だったようだ。わたしが吃驚した性器の屹立も年老いてなお割れた腹筋を打つことなく、中途半端な位置で止まっていたことを思いだす。行為の途中で益田さんが痛いと言うから、唾を出し、塗り、続きを始める。やがて出た精液の量も多くなく、ベッド脇に置かれたティッシュペーパーで簡単に拭き取れたほど。しかもサラサラしていて臭いも薄い。事後、わたし自身は濡れていない。面白いまでに感じなかったようだ。
わたしが益田さんに誘われたのは、妹がわたしの存在を増田さんに喋ったから。そう言う口の軽さは妹の欠点の一つだが、今更それを論っても詮無いだけ。中学校の帰り道で待ち伏せされ、運転手付きの高級車に乗せられ、数あるらしい益田さんの隠れ家の一つにまで案内される。益田さんが妹にどんな嘘をついたか定かでないが、妹は親切心あるいは老人に対する同情心から益田さんと付き合い始めたのだろう。すでに初潮を迎えていた妹は性に対し、いろいろと興味を持っていたかもしれない。が、あのときわたしの中にあったのは純粋な好奇心だけ。
「数時間、神隠しにあってみる気はないかね、衿子さん。キミは海老原孝子さんの一つ違いのお姉さんだろう。違いないね」
正確な文言まで憶えてない。益田さんは高級車の中からわたしに声をかけ、そんなふうにわたしの急所を突いてくる。わたしが反応したのは当然のこと。神隠し、という彼の言葉に……。
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