第一話 廃屋の彼女

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「あ、それ私かも」  廃屋にいる彼女は、僕が学校の幽霊騒ぎについて話すと、あっさりそううなずいた。 「え、ホントに君なの?」  僕はかえって言葉につまる。  髪の長い女の幽霊。その条件だけ見れば完璧にあてはまるものの、こうもあっさり肯定されるとは思っていなかった。 「学校って行けないし、興味あったんだ。夏休み中なら人もいないし」  その数少ない人に目撃されたというわけか。彼女の方は悪びれない。誰かを驚かそうと思 ったわけでも、ましてや呪おうと思ったわけでもない。ただ純粋な好奇心で学校にいたそう なのだ。夜の学校の暗闇が人の恐怖心を増長させ、噂が広まっていったのだろう。 「けっこう噂になってるよ」 「そうなの?誰にも見られていないと思ったけどな」  会って三日目ともなると、かなり口調もくだけてきた。相変わらずの暗がりで視界は悪い ものの、彼女のおぼろげな輪郭はうっすらつかむことができる。丈の長いワンピースに背中 まである長い髪。表情は読みとれない。僕は彼女の隣に膝を抱えて座っている。ずいぶん埃っぽい部屋だ。誰もいない家なんだから、当たり前かもしれないけれど。 「学校、行ってみてどうだった?」  僕が何気なく水をむけると、 「うーん。懐かしかった、かな」  彼女はどこか寂しそうだった。  だから僕もそれ以上詳しいことは聞けなかった。なんで彼女がここにいるのか。どうして僕を呼んだのか。もしホントに幽霊なら、なんで僕と話せているのか。僕に霊感はないはずなのに。  彼女には幽霊がまとっている暗い雰囲気がいっさいなかった。それも僕をこの場に留まらせる理由だった。僕が確かめたかったこと。ここにもう一度来た理由。それを今すぐここで話したい気もしたけれど、うまく言葉にならなかった。ただ今は、彼女とここで座って話しているだけで、なんだか妙に満たされていた。そんな感覚を幽霊に抱くなんて不思議だけれど。 「ねえ、君。名前なんていうの?」  不意にそう聞かれて、 「透流」と僕は応える。ついで、 「君は?」と聞いてみた。  反面、僕は返事をあまり期待していなかった。けれど、 「ナバリアンナ」  打てば響く速さで彼女はそう言った。僕は少し面食らう。
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