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「あ、それ私かも」
廃屋にいる彼女は、僕が学校の幽霊騒ぎについて話すと、あっさりそううなずいた。
「え、ホントに君なの?」
僕はかえって言葉につまる。
髪の長い女の幽霊。その条件だけ見れば完璧にあてはまるものの、こうもあっさり肯定されるとは思っていなかった。
「学校って行けないし、興味あったんだ。夏休み中なら人もいないし」
その数少ない人に目撃されたというわけか。彼女の方は悪びれない。誰かを驚かそうと思
ったわけでも、ましてや呪おうと思ったわけでもない。ただ純粋な好奇心で学校にいたそう
なのだ。夜の学校の暗闇が人の恐怖心を増長させ、噂が広まっていったのだろう。
「けっこう噂になってるよ」
「そうなの?誰にも見られていないと思ったけどな」
会って三日目ともなると、かなり口調もくだけてきた。相変わらずの暗がりで視界は悪い
ものの、彼女のおぼろげな輪郭はうっすらつかむことができる。丈の長いワンピースに背中
まである長い髪。表情は読みとれない。僕は彼女の隣に膝を抱えて座っている。ずいぶん埃っぽい部屋だ。誰もいない家なんだから、当たり前かもしれないけれど。
「学校、行ってみてどうだった?」
僕が何気なく水をむけると、
「うーん。懐かしかった、かな」
彼女はどこか寂しそうだった。
だから僕もそれ以上詳しいことは聞けなかった。なんで彼女がここにいるのか。どうして僕を呼んだのか。もしホントに幽霊なら、なんで僕と話せているのか。僕に霊感はないはずなのに。
彼女には幽霊がまとっている暗い雰囲気がいっさいなかった。それも僕をこの場に留まらせる理由だった。僕が確かめたかったこと。ここにもう一度来た理由。それを今すぐここで話したい気もしたけれど、うまく言葉にならなかった。ただ今は、彼女とここで座って話しているだけで、なんだか妙に満たされていた。そんな感覚を幽霊に抱くなんて不思議だけれど。
「ねえ、君。名前なんていうの?」
不意にそう聞かれて、
「透流」と僕は応える。ついで、
「君は?」と聞いてみた。
反面、僕は返事をあまり期待していなかった。けれど、
「ナバリアンナ」
打てば響く速さで彼女はそう言った。僕は少し面食らう。
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