第一章 01 にゃーとしか言えなくなる

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第一章 01 にゃーとしか言えなくなる

第一章 01 にゃーとしか言えなくなる 「あ、やべ。失敗した」  イヤな予感しかしない言葉が降ってきた。  わたしは閉じていた目を開ける。  正面に座っているのはお医者さんだ。  シワのよった白衣を適当に羽織っている彼は、三十路手前くらいのイケメンである。  無造作に切った金髪と、緑色の瞳。  イケおじと呼ぶには見た目が若い……というか、チャラい。 「いろいろ混ざっちまったかな。  今朝、あやうく猫のしっぽを踏みそうになって焦ったのが影響したか。  治癒魔法の最中に、頭に猫がついついよぎっちゃって。  いやー、悪い悪い」  ぜんぜん悪いと思っていない様子で、チャラめの医者はヘラっと笑った。  熱があるせいで頭がぼうっとしている。  わたしはぼんやりと考えた。  混ざったって、どういう意味だろ?  ここは街外れにある古びた診察所だ。  三日前からの風邪が悪化したため、治癒魔法をかけてもらうために訪れている。  わたしの名前はユナ。  小さい頃孤児院の前で捨てられたから、年齢はよくわからない。  シスターが言うには、たぶん17歳から19歳くらいらしい。  だからあいだをとって18歳にしている。  ただ童顔なので、友だちからは 「16歳の間違いじゃない?」  などと言われたりする。  ややこしいが、とりあえずまだ20歳(おとな)未満ということだ。  平民だから、姓は当然ない。  平民よりも、貧民というほうが正しいかな。  とにかくうちは、貧乏なのだ。
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