薄氷を踏みしめるように

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「生の本質って、内臓だと思うんだよね」  真っ白な雪に包まれた森の中、彼女はそう言った。 「内臓?」 「人間は内臓を正しく機能させるために食べて、眠る。骨も筋肉も血液も、全部内臓のためにあるじゃない? 背に腹は代えられぬって言葉は伊達じゃないよね」  彼女は右手を腹に添え、得意げに語る。 「もし手足がなくなっても生きることはできるけど、内臓がなくなったら死ぬでしょ? 哲学的な話は一旦抜きにして、動物の命は内臓にあると思うの」 「はあ……まあ、そうだな。特に異論はない」  小難しい話に適当なリアクションを取りながら、俺は現状を振り返っていた。どうして俺たちは、こんな話をしているのだろう。 「だから、あたしは死んでるんだよ」  薄氷の彼女は、そう言って眉を下げる。その表情は、あまりにも生きている人間のそれだった。  ああそうか、こんな話になったのも、俺がそう言ったからだっけ。
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