8人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「生の本質って、内臓だと思うんだよね」
真っ白な雪に包まれた森の中、彼女はそう言った。
「内臓?」
「人間は内臓を正しく機能させるために食べて、眠る。骨も筋肉も血液も、全部内臓のためにあるじゃない? 背に腹は代えられぬって言葉は伊達じゃないよね」
彼女は右手を腹に添え、得意げに語る。
「もし手足がなくなっても生きることはできるけど、内臓がなくなったら死ぬでしょ? 哲学的な話は一旦抜きにして、動物の命は内臓にあると思うの」
「はあ……まあ、そうだな。特に異論はない」
小難しい話に適当なリアクションを取りながら、俺は現状を振り返っていた。どうして俺たちは、こんな話をしているのだろう。
「だから、あたしは死んでるんだよ」
薄氷の彼女は、そう言って眉を下げる。その表情は、あまりにも生きている人間のそれだった。
ああそうか、こんな話になったのも、俺がそう言ったからだっけ。
最初のコメントを投稿しよう!