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「屁理屈ばかり言わないでくださいまし。殿下を支えるのですから淑女でいなければいけないのですよ」 「………明確な理由もないのに淑女でいろと言われても納得できないのでしたくありません。殿下を支えたいという気持ちはありますが、淑女とは別の方法でも支えることは出来ると思います。……これ以上は殿下と相談します」 頭の固いこの人に言っていても埒が明かないと判断し、ノアに相談するという形で問題を後回しにすることにした。きっとノアならユエの考えを理解して一緒に考えてくれるだろうという信頼から来る判断でもある。 「殿下を支えたいと言ったそばからそのような事で殿下のお手を煩わすなど、褒められた行いではありませんわ」 「相談することはいけないことですか?」 「相談することが駄目だと言うわけではありません。このような些末なことでお手を煩わせることがいけないのですわ」 「些末なことかどうかは先生の判断ですよね?殿下にもそう言われたらすぐに話しを終わらせます」 「殿下はお優しいお方ですから、きっとそのようなことを仰ることはないでしょう」 何を言っても否定しか返ってこない教師に、段々イライラとしてくる。前世では上手く受け流して対人トラブルなんてほとんど無かったのに、今はあまり上手く行かないのは、7歳という身体年齢が精神年齢にも影響されているからだろうか。 「些末なことだと判断したことを相談せず、後々大きな出来事に繋がることもあると思います。何でも一言耳に入れておくことも大切なのでは?」 ここで折れてはきっとかなり窮屈な生活を強いられるだろう。そんなことでノアとの婚約を後悔することは無いだろうが、自由に生きてきた記憶があるので、できるだけそれに近づけたい。 「っ………はぁ……。殿下がお可哀想ですわ。このように何に対しても口答えするような方が婚約者だなんて」 上手く反論出来ずに一瞬詰まったかと思えば、今度はわざとらしいため息と共に話題をすり替えてくる。そしてその目には公爵家という地位で選ばれただけの癖に、とでも言いたそうな色が浮かんでいる。常に優雅に微笑めと言っている者の表情としてはわかり易すぎるだろうと思いながらも口には出さない。 「……唯々諾々と何でも応じるだけの者が求められているのであれば、僕には向いていませんね。そして生徒の質問に対してだと判断する貴女は教師に向いていないと思います」 「な、なんということを!そのようなことを仰るだなんて……このことは王妃殿下へご報告させていただきますわ!」 「よろしくお願いいたします。僕も殿下を通じて王妃殿下へご報告いただくようお願いします」 「……この期に及んでまだ殿下のお手を煩わせようだなんて。………後悔なさいますよ」 自分の都合の良いように王妃殿下に話すことは目に見えているので、直接会う機会がないユエルはノアを通じて伝えるしかない。手紙ではいつ届くのか、いつ読んでくれるのか分からないのだからしょうがない。結局は自分の言動でノアにも迷惑をかけているという自覚がないのだろう。 「今日の授業は中止とします」 そう言い捨てると、足早に部屋を出ていってしまう。
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