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「はぁ、夫人の言い分はわかった。家族からも嫌われ、見放されているならば、教育と称して何をしても良いという考えなのだな?」 「そ、そこまでは……」 父上はいつから聞いていたのだろう。バーンズ夫人も同じことを思ったのか、急に返答がタジタジになる。 「今回の件は伯爵家に正式に抗議を入れておく。勿論公爵家の者を伯爵家の者が虐げたのだ。降爵か最悪の場合は奪爵、または離縁の後修道院へ入れるかの対応を求めるとしよう。どちらも受け入れることが出来ないのであれば打首を」 「そっそんな!」 「あぁそうだ、一ついいことを教えよう。ユエルはマリアの忘れ形見。ようやく私の色を持つ子が産まれてきてくれたと一層愛おしげに、短い間でも一等大切に思っていた子だ。……それをこの様な形で裏切られたのだ。マリアはさぞ悲しんでいるだろう」 「あ、あぁぁ、そんな、そんな、奥様の命を奪った子を、奥様の……」 「危険はわかっていた。ユエルが宿ってから日増しに体調が悪くなっていったのでな……しかし既に授かった命を捨てることは出来ないと、何があったとしても産むと決断したのはマリアだ。子供が無事ならば自分の命を喜んで差し出すとまで言っていたよ………連れていきなさい」 「閣下、お慈悲を!どうかお慈悲を!」 まだ喚き続けているバーンズ夫人を見送りながら、これで開放されるという安堵感と、全く覚えていない母上の話し、それも短い間でも慈しんでくれていたという事実を知った喜びとでいっぱいになる。 きっと元々のユエルの思いが強く出ているのだろうと、どこか冷静に思っている部分もあって、まだ完全には混ざり切っていないのだと自覚する。 ぼんやりとそんなことを考えていたら、父上に声をかけられる。 「ユエル、治療をしながらでも話をしよう」 「………わかりました」 そういえば母上の気持ちは知ることが出来たが、父上自身のことは話していなかったことに気がつく。母上は覚悟を持ってユエルを産んだが、残された方としてはどうなのだろう。やはり今まで避けていたことを考えると憎く思っているのだろうか。
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