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ユエルの自室で、先ずは医師に傷を診てもらう。到着するまで、流石にずっと上半身を晒してる訳にもいかずバスローブのような物を着せられていた。
「お待たせ致しましたな。では傷を見せていただけますかな?」
言われた通りにゆっくりと傷に触れないように脱いでいく。すると先程まで人好きのする笑みを浮かべていた医師の顔が険しくなっていく。
「これは……まず血が滲んでいるものは直ぐに治癒魔法で治してしまいます。比較的軽症のもので、跡が残らないようなものは自然の回復力が落ちてしまわないように浄化魔法にとどめておきましょう。………今までも同じようなことがあったのですかな?」
「コクリ……バーンズ夫人の授業がある時は、記憶にある限り毎回です。このように酷いことは滅多にありませんが…」
「それに毎回全ての傷を治癒魔法で?」
医師が険しい表情のまま尋ねてくるので、それにもう一度頷いて返答をする。
「うぅむ………」
「先生、何か気にかかることが?」
硬い表情のまま唸り、黙り込んでしまった医師に対して今まで黙っていた父上が問う。
「いやぁなに、今まで全ての傷を治癒魔法で治していたとなりますと、人の体が元々兼ね備えている治癒力がかなり落ちてしまっていると考えられましてな。自然治癒力と呼んでいるのですが、最近の研究ではそれが落ちてしまっている人は病気に罹りやすく、また治りにくくなることが解りましてな…ユエル様の状態はあまり良くないのではないかと…」
「……ではどうすればよろしいか?」
「既に済んでしまっていることですからなぁ。今後は大きな怪我以外は治癒魔法を使用しないという他はありませぬ。ユエル様の体が頑張るしかありませぬ。兎に角傷を清潔に保つことが大切ですぞ。一日に二回程、分かりやすく入浴後と朝の着替えの時に浄化魔法をかけると良いでしょう」
「そうですか…分かりました」
優月の記憶の中で自己免疫力というものがあったことを思い出す。きっと言い方は違えど意味は同じなのだろう。
そんなことを考えていると、いつの間にか医師は化膿止や万が一熱が出た時にと解熱剤を置いて帰ったらしく、父上とセバス、ユエルの三人だけになっていた。
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