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しばらく泣いていたがその間、父上は少し戸惑い、珍しくオロオロと戸惑う様子を見せながらずっと抱きしめて、ぎこちないながらも背中を撫でていてくれた。 ようやく泣き止むと父上もゆっくりと離れていき、顔を見合わせる。父上の顔は今まで見たことがないような、眉間に皺を寄せながらも眉尻が下がり、すごく困った顔をしていた。それが何だか可笑しく思えて、泣き腫らしてパンパンになっている自分の顔も、きっとおかしな事になっているだろうと想像して、笑いが込み上げてくる。 「ふっ、ふふふっ、あははっ」 「?……ははっ」 急に笑い出したユエルを不思議そうに見たあと、ようやく少し安心したのか父上も僅かに笑う。父上の笑った顔なんて見たことがなかったから、それがすごく嬉しくて、余計に笑いが止まらなくなってしまう。しばらく笑っていると、唐突に疲れを実感して眠気が襲ってくる。 「少し休みなさい。…今まで頑張ってきた褒美をやらねばな。何か願い事を考えておきなさい。バスチアン、ユエルの目を冷やして休ませてるように」 「かしこまりました旦那様。さぁ坊ちゃま、こちらへ」 「ん。……父上、また夕食で」 「あぁ、今はゆっくり休みなさい」 「ふふっ、おやすみなさい」 「あぁ、おやすみ」 普段挨拶なども必要最低限で、おやすみの挨拶もしたことがなかったのに、今の短時間でたくさんの初めてを経験した。優月の記憶では当たり前に出来ていたことが、ユエルになってからは出来なくて寂しさを感じていたため、今は胸のあたりがほわほわと暖かく感じる。 ベッドに横になると、バスチアンが目を冷やすための準備を始めたのがわかるが、どうにも瞼が重くて仕方がない。記憶を辿る限り、ほとんど部屋から出ず動くことが少なかったため体力が無いのだろう。そんな中で助けを求めるために短い距離ではあるが走り、その後にあれだけ泣いたのだからしょうがないのだろうが、優月の感覚では貧弱すぎていけない。 (父上の許可が出たら、剣術とか馬術とか習わせてもらおうかな。あぁ、せっかく魔法もある世界なのだから魔法もいろいろと覚えたい) 先ずは体力を付けなければと思いながらも、やりたいことが次々に思い浮かぶ。何からお願いしようかと悩みながらバスチアンを待つつもりが、瞼が降りてきてしまう。きっとこれからは楽しく生活できるはずだ。願わくば、前世と同じように歌を生業として生きていきたい。そんなことを思いながら、ユエルは夢の世界へ落ちていった。
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