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食堂へ入ると、父上はまだ来ていないが、ハムザとエイデンは既に席に着いていた。 ユエルが来たことに気がつくとハムザは特に何も反応を示さないが、エイデンにキツく睨みつけられる。特に睨まれる心当たりがないユエルは、内心首を傾げつつも一先ず挨拶をしておく。 「こんばんは、兄上方」 「お前っ!どの面を下げてここに!」 ニコリと笑みを浮かべながら挨拶をすると、エイデンが急に机を叩きながら立ち上がり、声を荒げる。 「どの面、とは?」 「とぼける気か!」 「エイデン、熱くなりすぎだ。ユエル、早く席に付きなさい。父上が来てしまう」 「?はい」 エイデンの全く意味が分からない叫びに首を傾げながらも、ハムザに言われた通りに席に着く。 「兄上!何故あいつの味方をするのですか!」 「はぁ……味方をしているのではない。父上が来てから事実を確認した方が良いと思っただけだ」 「しかしっ「何を騒いでいる、エイデン」……父上」 ハムザに向けて更に言い募ろうとしていると、父上が姿を現す。それに少し冷静さを取り戻したのかエイデンが椅子に座りなおす。それを見ながら父上も席に着き、ジッとエイデンを見つめると一拍おいた後問いかける。 「それで、何を騒いでいたのだ」 「っ!コイツが!ユエルが、バーンズ夫人を追い出したと耳にしたのです!僕たち兄弟をしっかりと教育してくださったあんなに素晴らしい人を…どうせユエルがまた我が儘を言ったのでしょう?父上、バーンズ夫人を絶対に辞めさせないでくださいね!」 「…素晴らしい人、か」 どうやらエイデンはバーンズ夫人が追い出されたと聞き、その内容までは知らないエイデンは、ユエルが今までと同じように我が儘を言って追い出したのだと腹を立てていたようだ。そんな言葉を聞いた父上は、今までは自分も良い教師だと思っていたため、自嘲するように鼻で笑ってしまう。 「……何かおかしいことでも?」 「いいや、私も今日の朝までは問題のない人だと思っていたのでな」 「問題なんて、なかったじゃないですか。我が儘ばかりのユエルの面倒だって見てくれていたのですよ?」 「ふぅ。……では聞くが、お前は何かミスをした人を鞭で何度も叩くような者をどう思う?」 「?なぜいきなりそのような話になるのですか」 「いいから答えなさい」 「……暴力はいけないことです。ですがきっとそのミスをした人は犯罪を犯したか、人の命にかかわるような間違いを犯したのでしょう」 「ふむ。では何も大きなミスを犯していない、ただ質問を投げかけたような人物に対して鞭で叩いた場合は?」 「ミスを犯していないのに鞭で叩く?そのようなこと、許されるわけがありません」 そんなやり取りをしばらく見ているが、きっとここで急にバーンズ夫人が、実はそんな人だったと言ったところで、エイデンは納得しないのだろうと予想する。
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