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「ユエル、お前は……いや、なんでもない。エイデン。今回のことは私も直接ユエルの傷を確認している。多くの使用人もだ。それに、夫人も持論を交えながら自供と取れる発言をしている」 「そんな…いいや、絶対にユエルが何かしたんです!だってこいつは母上を殺した「エイデン!」っ!」 「はぁー……。全ては現実から目を背けてしまっていた私の責任だな……。いいかエイデン、夫人からお前たちの母を奪ったのはユエルだと教えられたのだろうが、それは違う。ユエルは、母であるマリアと私が望んで産まれてきたんだ」 そうして父上は、ユエルにしたようにもう一度話し出した。その話しを聞いていくうちに、エイデンは唇を噛み締め、徐々に俯いていく。 「貴族とは領民、弱き者を助け、導く存在だ。自分より幼き、助けるべき存在である弟を、母を殺しただなどと謂れなき理由で虐げたこと、許されることではないだろう。しかし元を正せばその原因を作ってしまったのは私だ。ユエルにしっかりと謝り、これからの態度を改めなさい。ハムザ、お前は何か言いたいことや聞きたいことはないか?」 そう名前を言われて、ずっと空気のようになっていた長兄を思い出し、視線を向ける。 「……私は、バーンズ夫人の話す内容に違和感を覚えることがありながら、後継者教育があるからと問題から目を背けてきました。……ユエル、すまなかった」 ずっと黙っていたのはきっと話の内容を聞いて、自分の中で考えて判断していたのだろう。優月が13歳の頃、ここまで落ち着いて判断出来ていただろうか…イジメ問題は大なり小なりあった気はするが、かなり能天気に過ごしていたためあまり気がつかず、周囲の反応などあまり気にせずに様々な人と関わり、部活に遊びにと好きにしていた気がする。10年程前のことなので正確には覚えていないが…。 ともかく、教育係によって歪められていた思想をこの短時間で冷静に振り返り、違和感を感じていたとはいえ、すぐさま己の非を認めることはなかなか出来ることではない。しかしだからと言って許せるかどうかは別の話しというか、今は優月としての考えが大部分を占めているので、すぐには判断できそうもない。それにあまり暗い雰囲気は好きではないので、この陰鬱とした雰囲気もそろそろどうにかしたい。 「一先ず謝罪は受けます。しかし許せるかどうかはわかりません。長い時間がかかるかもしれません」 「あぁ、それで構わない。謝罪する側がとやかく言えることでもない」 本当にハムザは13歳なのだろうか。話す口調や内容がいやに大人びているように思う。これがこの世界の常識なのか、貴族教育のたまものなのか、後継者教育を受けているからなのか元々の性格なのか。考えられることは多くあるが、今は気にしていてもしょうがないだろう。何せ比較対象がいないのだから。
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