21/76

615人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「ダメ、でしょうか?」 「……駄目だという訳では無い。しかし、剣術を習うとどうしても骨格がガッシリとしたものになりがちでな」 「………?それは良いことなのでは?」 「ハムザやエイデンであれば積極的に鍛えさせるが、ユエルの場合は嫁ぎ先の候補を狭める要因になり得る」 「とつぎさき…」 婿入り先では?と思い疑問符が浮かび上がるが、そこで思い出す。ここは同性での結婚·出産が出来る世界。つまりは髪を伸ばすのも、ガッシリとした体付きにさせたくないのも、男に嫁がせる時にマイナス要因として捉えられるからだろう。 (俺が嫁ぐのか!) いくら偏見がないからといって、優月の頃から恋愛対象は女性だった、と言ってもバンド活動に明け暮れ、充実した日々を送っていたので彼女いない歴=年齢ではあるのだが、ともかく自分が同性となどと考えたことがない。 「えぇと…、結婚しない、という選択肢はあったりしますか?」 ものは試しだとそんなことを聞いてみると、父上の眉間に皺が寄る。エイデンなんかは、そらみたことかと言い出しそうな表情でニヤニヤとしている。 「……ユエル、それは難しいだろう。結婚せずに今後どうしていこうと言うのだ?ハムザが公爵家を継いだ後もずっと居座るわけいはいかないのだぞ」 「そんなつもりはありません!ただ、そのー、宮廷楽士になって、一人で生計を立てれたらな、と……」 「宮廷楽士?……確かに名誉ある仕事ではあるが、なれるのは一握りの者だけだ。先程学びたいと言った中に音楽関係のものは無かっただろう。元々貴族教育で軽く習わせるつもりではいたが、嗜み程度でなれるとでも思っているのか?」 「そのようには思っていません!ただ、えっと、歌には自信があります!」 突拍子もないことを言っていることはわかっている。なんと言ったって今までユエルは音楽に触れることも殆どなかった様子なのだから、それが急に宮廷楽士だの歌には自信があるだの言い出したのだ。 「……父上、ユエルであればもしかしたらなれるかもしれません」 「ハムザ?どういうことだ」 「先程庭で鼻歌ではありますがメロディーが聞こえてきたのですが、今まで聞いたことのない曲調で、なかなかのものでした。新しい物好きの今の宮廷楽士長の目に留まるやもしれません」 「庭で?そうなのか、ユエル?」 「聞いておられたんですね…その、あまりにもいい天気で、バーンズ夫人から解放されたのもあって……」 「そうか…自信があると言っていたが、今何か歌えるのか?」 「っ!歌えます!」 急に歌うということになって、少し不安な気持ちはある。前世みたいに歌うために持久力をつけたり腹筋運動をしたり歌い続けて喉を鍛えていた訳では無いのだ。しかし、今ここで歌えなければユエルの将来は何処かの誰か(男)に嫁ぐ一択となってしまう予感がする。先程はいきなりの男に嫁ぐという情報だったので動揺したが、正直相手は男でも女でもどちらでもいい。でも前世の感覚が強いので、出来れば恋愛結婚がしたい。その為にも今しっかりとアピールしなければ。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

615人が本棚に入れています
本棚に追加