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次の日の朝、昨日の服はどうなったのだろうとソワソワしながら朝食の席に着く。すると、その落ち着きのなさを感じ取った父上が声をかけてくる。
「ユエル、王子殿下のパーティーだからといってそう気負うことはない。殿下はお前と同じ年だ。多少の粗相があったとしてもみな同じようなものだ、安心しなさい」
「え?あ、あぁ、ありがとうございます」
「……もしかして殿下に見初められるかもだなんて思ってないだろうな?」
不機嫌そうな顔でエイデンが話しかけてきたので、あれだけ言っても変わらないのかと、ため息を吐きたくなるが余計にややこしくなりそうなのでグッと耐える。
「そんな訳がないでしょう?この間もお伝えしましたが、僕は結婚などせず宮廷楽士になって生計を立てるのです」
「ふ、ふーん。勘違いしていないならいいんだ」
どこか嬉しそうな顔をしているエイデンを少し不気味に思いながらも、それを突っ込んではいけない気がする。
そっと目を逸らしながら父上に向けて話し出す。
「粗相をしないかも心配はしているのですが、昨日の夜にバスチアンに少し無理なお願いをしてしまって……その結果がどうなったかが気になってしまって」
「無理なお願い?」
「あー、と、その、今日着る予定だった服なんですが、えっと、あまりにもフリルが多かったので、少し減らせないかという相談を……難しいことはわかっているので、全く変わっていなくてもしょうがないとは思うのですが…」
無理なお願いと聞いた瞬間、今までのユエルの行動を思い出したのだろう。父上の片眉がピクリと上がるのが見え、慌てて内容を説明する。
「……なるほど。まぁその程度であればなんとかなるだろう。それにしても、前はフリルの付いたものを好んでいた…あぁ、記憶障害になると好みも変わるのか?」
「その辺りはよくわかりませんが、付け過ぎはよくないなと、昨日見せてもらった時に思ったことは確かです」
「そうか。なんにせよ、バスチアンに頼んでいるのであれば何とかなるだろう。今までの服もフリルばかりだったと記憶しているが、全て新調するか?」
「まさか!フリルを取ることが出来るならそれだけでいいです!どうせすぐに身長が伸びて買うことになるんですよ?」
魔法がある世界なので、余計に相場などわからないがこういう時代、おそらく一着一着手縫いだろう。それを全て新調するとなると、いったいどれ程の金額が飛ぶのだろう。それにここは公爵家、きっとそれ相応の装いというものが求められて更に金額が…と考えてしまい恐ろしくなる。
価値観も随分優月に軍配が上がっているのだと自覚した瞬間だった。
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